或いは其処から悪い毒が全身を巡る様に、俺の内を何か、痺れにも似た衝動が駆けて行くのだ。 人差し指の先に、男の形の良い唇が触れている。普段は俺を"帝王殿"と呼び、嘯き、からかいを口にする唇が、この時ばかりは仰々しく指先に触れるのに、俺はいつもなんとも言えない気分を味わう。 甘い、というのとは違う。かといって、苦いわけでもない。むず痒い様な、総毛立つ様な、しかし、何処か清冽で、それでいて限りなく劣情に満ちた感覚だ。心の内に潜む陽炎の様な情を掻き立てて、引きずり出し、暴き立てる様な。 男は俺の指先に軽く唇を乗せて、そうして、そのままで此方を見る。 欲の見え隠れする金の瞳。だが、俺の瞳も同じような色をしているのだ、多分。 「止せ」 往生際悪くそう呟く俺の唇は、とうに理性の支配を離れていて、男もそれを知った上で「御免被る」と意地悪く笑った。 指先に触れていた唇が首筋に押し当てられ、ちり、と焼け付く様な気配。 また毒が廻る。 俺はもう抵抗すらできない。 金の瞳の中で、緩やかに壊死してゆく。 爪先から毒 2006.8.7 上 2006.6.21 加筆修正(※暗薄雑多100No.91) au.舞流紆 |
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