Tragic Nostalgia.

   あの花が散った日を覚えているか、 (閉じた楽園に息をする哀しみを、)


**作品概要

『呼吸、閉塞、かみさま』をメインテーマにしたニール×ティエリアのコンセプト短篇集
2008年4月発行の「Flower Crown.」からの再録文にWEB上公開作品の加筆修正版や期間限定公開文、
新規書き下ろし作品を加えた、計14本を収録
※¥300、A5コピー本、28頁


**収録内容目録

とある男の厄介な恋の話/幸福の肖像/グッド・サマー・バケーション/ノー・プランの奇/次に噛むのは、/
埋葬計画/dog&god/鐘の鳴る街にて/
ペイル・メランコリ/潰えるためのレクイエム/或いは、抜き身のナイフ/
跪くうつくしき負債者/或いは、重たい本/クルセム・プラント




**サンプル文

ティエリアを振り返ると、彼はまだ拭い続けていた。念入りに擦りすぎたせいで、肌が幾らか赤い。思い切り顰められた顔は、つい先程までの僅かに熱を帯びた悩ましげな表情とはまるきり違い、とても神経質に見えた。

( ああ、まったく、)

負けず嫌いや完璧主義も此処まで来るとたいしたものだと言いたくなった。
なぞる舌先はそれほどに熱心であり、執拗であり、いっそ可笑しいくらいに徹底していた。そのくせ、やはり何処かで幼いのだ。
原因は至極単純なもので、先日の夜、未だに物慣れない様子で身体の下へいたティエリアに向かって、俺が「全部任せていればいい」と言ったかららしい。 まさか彼がこういった方面の事にまでもその気骨を剥き出しにしようとは、本当に誤算だったとしか言いようがない。解っていれば、もっと言葉の選びようもあったのに(それにしても、本当に扱い辛い)。
見るに見かねて、やりすぎ、と言うと、タオルの下から、貴方のせいだ、と返ってきた。つん、と顔を逸らすのかと思いきや、陰惨な表情で睨みつけてくる。


                                            from 「次に噛むのは、」



「何故貴方は傷付かない、」

何故ですか、何故。
彼はそればかりを繰り返している。耐え凌ぐように握られた指が白い。壁と同等だ。俺の漏らした息にさえ、彼の身体は慄いていた。
なるたけ平素と変わらぬように口を開く。

「傷付く要素がないんだから、傷付きようがないだろ」
「要素なら幾らでも、貴方は、貴方は狙撃手だ、効き目が無くては、」
「確かに効き目は右だ。だが、左でだって撃てるように訓練はしてる。身体は動くし、思考も感覚も正常だ。今、腹も空いてるし」
「違う、そういう問題では、」
「そういう問題だよ」

柔らかな髪へ、指を通す。

                                          from 「或いは、重たい本」



「人間は、死んだら神様の国に行く」

呟きは落ちた先、この生にとっては十分すぎるほどに意味を持つ名の刻まれた石に砕けた。
ロックオン・ストラトスの言葉が真実であったなら、彼はまさしくその場所にいるのだろう。だが、"真実であった"と仮定するのなら、という話だ。
手向けた薔薇、噎せ返るほどのその香りに、多少の後悔をする。
そうして、少しの嘆息をし、石の上の文字列をなぞる。今までに幾度なぞったのかは覚えていない。ただ、数えるのも莫迦らしいと思える程度にはなぞっているようだった(文字の縁の僅かに欠けた箇所を、鮮やかな色をした苔が覆いつくしていて、それは前回訪れた時には全く存在しなかった生命であった。その葉の上の、眩い露も)。

「…そう思っていたいだけです、」

呟きは砕ける(薔薇も砕け、芳香は僅かに揺らぐ)。


                                          from 「クルセム・プラント」































































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