斜陽の光だけが射す室内で、ディーノは無心に弓を掻き引いていた。目はじっと四本の弦の上に留めているように見せかけて、何処か全く別の場所(例えば壁の向こう側)を見据えている。民族舞曲調の荒々しい旋律を奏でるボーイング、その演奏は決して乱暴なものでは無かったけれど、奥底に焦燥か懊悩に似た音を幾らか滲ませている。ほんの僅かな音のぶれは、恐らくそのまま彼の感情の揺れを示しているのだろう(楽器の種は違っても、音色に潜む感情を読み取るという行為に関してはあまり大差が無いように思う)。
部屋は段々と宵闇の薄暗い空気に満たされ始めて、残留する夕日の赤を静かに侵食していく。
ディーノの金色の髪は段々と群青に染め上げられていって、飴色に光っていたヴァイオリンも石の様な色合いに変わっていく。凝固する、といった方が正しいかもしれない。彼とその周りの物、全てが冷ややかに固まりゆく気配、その中で、音色だけは異様に滑らかに吐き出されていく。

(そんな風な。そんな風なところだけ器用じゃなくてもいいのに。なまじっか綺麗だから、余計に重々しいんだ、テメーの、音、)

ディーノはまだ手を止めない。
俺は中途半端に開けたドアの前で立ち尽くす。
あと五分もすれば、彼は何食わぬ顔で部屋から出てきて、俺に向かって甘く笑うんだろうな、と考えて、俺はそれが現実になる事を既に知っている。

群青の夜気

2007.5.5   上 au.舞流紆
Short Sentences of "Scolorimento" Color No.09 Cobalt blue * Special Thanks for the planning ... dear E





























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