テーブルに置いた二つのカップの縁には淹れたての熱いコーヒーが蕩揺い、湯気が薄く立ち上って、部屋は既に香ばしい匂いで充満している。 二つの内の片方をディーノに押し出すと、彼は幾度か瞬きをして、俺の方にカップを押し戻した。 「これじゃなくて、そっち」 そう言いながら、手を伸ばして俺の元にあったカップを取り、一口飲み下して、「美味しい」と笑う。 少し前に二人して買いなおしたカップは全く同じ菫色をした、全く同じ形のものだったので(精々それくらいが限度だ。ペアのものなんてこそばゆくて買えないし、選んでもらうなんて以ての外だ)、それ以来、俺にはどちらが俺のもので、どちらが彼のものなのかが解らない。 けれど、ディーノには区別がつくようで、今のように指摘してはカップを取り替える事が間々ある。 「なんで解んだよ」 「なんでだろな?」 問いをはぐらかすでもなく、本当に解らないといった風にディーノは首を傾げて、ついには俺も一緒になって首を捻る。 時折訪れるこの妙な時間が俺は嫌いじゃあない(こういう"お揃い"はあまり恥ずかしくないから)。 菫のカップ 2007.7.20 上 au.舞流紆 Short Sentences of "Scolorimento" Color No.06 Violet * Special Thanks for the planning ... dear E |
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