陶器と何かが勢い良くぶつかった音に振り返ると、ディーノが顔を固めて目を瞬いているところだった。その手には薄紫色をしたカップの取っ手だけが握られていて、カップの本体はまるで手品の様に消え失せている。だが、勿論手品などではなく、カップはきちんとあった。フローリングに粉々に砕け散って、コーヒーの波間に沈んではいたけれど。

「あぁ、」

もう古いからなぁ、とディーノは頭を掻き、取っ手をテーブルに置いて、雑巾で床を拭く。カップの欠片を拾う。表情は見えないけれど、多分、苦笑いのようなものを浮かべているのだろう。それで、あの金髪の下で、割れてしまったカップと其処に込められた時間について考えている。
「新しいの、買えば良いだろ」と言うと、歯切れの悪い返事が答えるので、薄紫の取っ手を差し出したところ、彼はそれを手にとって暫く眺めた。長く付き合った友人と別れるような顔だ。育ちが良いくせに、ディーノは意外と物に執着する性質で、俺はそれをわりと気に入っている。
幾度か瞬きをした後、浅く息を吐いて「同じような形のやつが良いな」と彼は静かに笑った。
明日の予定は、どうやら買い物になりそうだ。

のカップ

2007.3.13   上 au.舞流紆
2008.2.4    加筆修正
Short Sentences of "Scolorimento" Color No.05 Purple * Special Thanks for the planning ... dear E





























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