「おい、ディーノ!待て!」

咄嗟に上げた叫びに、アンバーの瞳は不思議そうに此方を向いて、それから俄かに顰められる。うぐ、とくぐもった悲鳴を漏らし、口を押さえると、キッチンのシンクへ沈む。水がステンレスの板を叩く音と、咽た様な咳から察するに、先程口に入れたものを吐き出しているのだろう。
ややあって、青い顔をしたディーノが戻ってきた。

「…砂糖菓子かと思った」

苦々しい表情をして、刺青の入った手は飾り箱を手に取る。
白地に金の箔押しがされたその箱は、中が六つに区切られていて、その区画の一つ一つに小さな薔薇の形をした石鹸が収められていた。表面にはザラメに似た結晶が塗されていて、一寸見では砂糖菓子にも見える。
味を思い出したのか、忌々しげに箱を投げたディーノは口許を押さえた。

「ああ、まだ口の中が苦いし、痛い」
「あの周りに付いたやつが最悪なんだよな」
「そうなんだよ。じゃりじゃりしてて」

一連の遣り取りの後、彼は「ん?」と目を瞬かせて此方に顔を向けたので、俺はそっぽを向いてカップに口を付けた。先程から砂糖を入れた紅茶で湿らせている舌先は、まだ微かな苦味を覚えている。

薔薇の蜜蝋

2007.10.7   上 au.舞流紆
Short Sentences of "Scolorimento" Color No.04 Rose pink * Special Thanks for the planning ... dear E





























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