ビルが立ち並ぶその大通りは、雑踏という表現が酷く似合った。話し声、靴音、香水の匂いが行き交って、俺達はその中の小さな点に過ぎない。
前に、都会の人込みがあまり好きじゃない、といったような言葉を口にしていたハヤトは、少し俯いて俺の横を歩いている。買った物は全部(全部といっても、そう大きくもない袋が一つだけだけれど)俺が持っているから、彼の手は何処か所在無さげに下げられている。
空いた方の手で、徐にその指先を捕まえると、翠の色をした瞳が訝しげに此方を向く。

「迷子になったら困るだろ?」

笑うと、ハヤトは「誰が迷子になんかなるか、アホ!」と叫んで、必死に手を振り払おうとするので、俺は余計に力を入れて、それを阻止しなければいけなかった。そうしながら、「ハヤトが、じゃなくて、俺が」と付け足す。すると、反抗は嘘の様に大人しくなって、呆れたような浅い溜め息と一緒に緩く手を握られる。
ハヤトは手を離したら俺が迷子になると本気で思っていて、実際その通りなのは自分でも哀しかったけれど、こういう時にはそれが少し有り難くて、彼の嫌いな雑踏も俺には多少良いものの様に思えるのだった(普通の道や街に比べたら、余程手が繋ぎ易い立地条件だったので)。

の壁

2007.2.3   上 au.舞流紆
Short Sentences of "Scolorimento" Color No.19 Gray * Special Thanks for the planning ... dear E





























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送