「誕生日おめでとう、ハヤト」

深夜、当然のようにアパートを訪れた男は当然のようにそう言って、薄暗い玄関先で笑った。
けれど、そうしたかと思うと、ふらふらとすぐ脇の壁に寄り掛かってしまう。金髪に包まれた頭と壁とがぶつかって、派手な音をたてた。

「ディーノ!」

夜更けだという事も忘れて思わず張り上げた声に、返答は無い。その代わり、彼はそのアンバーの瞳をぼんやりと二度三度瞬かせた。何回か見た事のある仕草だ。
足が立たなくなる前にと引きずり込んだ室内、ベッドの上に半ば投げ落とすように横たえたディーノに「何日だ」と問うと、辛うじて「二日、」と呻く。そうして、「ごめん、」と言ったきり、彼はまるで電源が切れたように動かなくなり寝入ってしまった。その眉間に僅かに寄せられた皺から察するに、もしかしたら良い眠りではないのかもしれない。
二日間徹夜するなんて無茶もいいところだ、日本に来ないで屋敷で寝ていれば良かったのに、と思い、けれど、俺は何か泣き出したいような気分だった。

(ああ、だって、ずるすぎやしないか。普段はほったらかしておくくせに、こういう所で律儀なのは。俺を捨てないで、自分の持ち分だけを削るなんていうのは、)

正直、良くて電話、そうでなければメールで済んでしまうだろうと予想していて、それでも構わないとすら思っていたものだから、身体の内側は瞬く間に温かで苦しい何かに埋め尽くされてしまった(誕生日に家へ訪れた恋人に祝辞を述べるなり寝こけられても、俺にはそれだけで充分だったし、彼にはそれが限界で、つまりはこれが俺達の最良なのだった)。
死んだように眠るディーノの傍らへ潜り込み、静かに身を寄せる。間近にある眉根はやはり僅かに寄せられたままだ。形の良い顎に指先で触れる。
今日は10代目が誕生日会を開いて下さると仰っていたけれど、余った時間は全部彼にやってもいいし、本当なら祝われるのは俺の方でも、彼の多少の我儘くらいはきいてやらないでもない。甘やかすのも甘やかされるのも得意じゃあないから、せめてまわされた腕の中では大人しくしていようと決めて、いつも投げてしまう減らず口はなんとか努力をして幾らかでも減らそう、と思う。
滅多に口には出せない言葉と一緒にそっと押し付けた唇は、乾いていて、けれど、温かい。

9月9日、午前一時をまわって暫くした頃の事だ。

1:07am

2007.9.9. AM 1:07   上   au.舞流紆
獄寺隼人生誕文。タイトルの読みは「ワン・オー・セブン・エイエム」


























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