他愛のない夢の話をするのは好きだった。
夢だからだ(然るに、それは現実や、ましてや未来にならなくともいいのだ。あくまで夢だ。些かの現実味を帯び、ある程度の重さを持っていさえすれば、それでよかった)。


「例えば莫迦でかい家を買ったとして、」

例えば莫迦でかい家を買ったとして、其処に俺たちが住むんだとしたら、お前、どうする?
そのような言葉から始まったピロートーク(にしては、やや色を欠いた話)を、隣へ寝転がっていたハヤトは呆れ返ったような表情で聞いていたが、俺の声が途切れると、口を開いた。彼の口から出てきたものは、俺が先程までに並べ立てたものとは若干の食い違いを含んでいて、そして、彼はそれを譲る気がないようだった。
つまるところ、家具の形だとか色だとか材質だとか、そんなような箇所についてだ。

「猫足のバスタブは絶対に嫌だ」
「如何して?足でも突っ掛けて転んだか?」
「……」
「はは、図星」

笑うと、背中を殴られる。握りこぶしでだ。けれども、痛みは無い(彼は怒ってはいない)。
綿々と続くのはそういった、実も虚も無い話だ。まさしく夢、正しく架空の。そんなものを多く連ねる前に言わなくてはいけない筈の言葉を、俺達は其処へは上らせなかった。マナーで、そうして、義務だ。
暗黙を暗黙と認識する前に、互いの笑みや温かさや夜の密やかな呼吸の合間で以って埋め、塗り潰し、縫い閉じてしまう。それは、最早拭いようの無い癖だった。


今日も、何処までも逃げてみるか、と尋ねる代わりに、家の壁の色は白がいい、と笑ってみせる。ハヤトは、白は汚れるし、俺は煉瓦がいい、と言う。じゃあ煉瓦で。二つ返事に、翠の瞳は静かに瞬いて、だったらバスは譲歩する、と返した。僅かに笑い合って、そうして抱き合う。
他愛のない、夢の話をする(塗り潰すために、夢から覚めないように、)

night-in-gale

2009.3.30   上 au.舞流紆
罪にならない程度の逃避@10年後














































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