束縛は無い。それが在ったなら、俺は彼の傍にはいられなかった。逆も然りだ。
けれど、時折それが欲しくなる。その当たり前の情動だけが、俺達には足りなかった(なにしろ意図的な欠落なのだから、もとより如何しようもないのは解っていたけれども)。



『明日、何か予定入ってるか?』

俺、今日の夜にそっちに着くから、もし暇なら会いたい。
電話越しに、幾らか浮ついた声でディーノが言って、俺はそれに「暇、じゃねえ」と返した。

「約束が、」
『ツナと?』
「解ってんなら一々疑問系にすんな」

唸ると、彼は電話の無向こうで「悪い悪い」と笑った。そして、「なら、いいや」と言う。

『もし空いてたら、て思っただけだから』

其処で明日の予定に関する会話は終わってしまって、互いの近況報告や雑談に埋もれてしまう。
曖昧な相槌ばかりを打ちながら、ベッドの上へ蹲る。鼓膜に触れる声は穏やかで、余計に堪らない気分になった。
ディーノが「如何しても」と言うなら、俺は約束を反故にしたっていいと思っている。けれど、それを赦してくれるような男じゃあない。それを知っているくせに、「次は何時日本に来るんだ」とすら、俺には言えないのだ。
遠慮じゃなく、ただの保身に過ぎない。離れたくないから、離されたくないから、わざと距離を置いている。或いは、俺の頭が変に知恵をつけずにいたなら、もっと単純な構造をしていたなら、後先考えずに彼と抱き合っていられたのだろうか(けれど、果たしてそれは両者にとって幸福な事か?)

『…ハヤト、疲れてる?』

気遣う様な声色が、唐突に聞こえた。どうやら相槌さえも疎かにしていたらしい(ディーノは優しい。疲れているのはきっと、俺よりも彼の方だ。それに、俺が抱えているこれは、もっと違う類のものに違いない)。
「別に」と言うと、『もう電話切った方が、』と食い下がるので、声も荒く彼の名前を叫んでしまう。

「もう少し、」

声を聴いていたい、と続ける筈が、そこから先は喉に痞えて消えてしまった。
携帯電話の向こうで、ディーノは黙っている。
やがて、そっと落ちる。

「じゃあ、もう少し」

こんな情動は欲しくなかった、と、常とはまるきり逆の事を思っている俺の耳元で、甘いだけの声が、柔らかな言葉を紡いでいく。空洞を埋め尽くして、溢れても、只管に満たしていく。
抱えたジーンズの膝へ、顔を伏せる。

In the cage.

2008.4.11   上 au.舞流紆
疎ましいけれども手放せませんよね、という話(それにしても最近電話越しのデノ獄話ばかり書いている気が、)














































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