横たわる少年のあどけない寝顔には、不釣合いなガーゼが布テープで押し付けられていた。ぼんやりとした灰色の髪の下、幾重にも巻かれた包帯の、その薄ら寒い白さ。
ハヤトがそうして静かに横たわっている光景を見るのは、一体これが何度目だろうか。力なく落とし込まれた瞼をそっと視界に納めるのは。

(傷口に織り込まれた砂を、俺は如何にか吸い出す事が出来るだろう。それが砂じゃなく、膿であったとしても、小さな(或いは、極めて小さな)棘であったとしても。唯一俺には彼の血が流れ足りない時に、自分の手や足を切り裂いて、代わりに血を流す事が出来なかった。その痛みには耐えられても、それをする事は躊躇われた。臆病が原因じゃあない。俺が彼の為に流す血を持ち合わせていない、ただそれだけの事だった。結果、過渡期に在る小さな手や足、薄い肢体は、見る間に傷だらけになっていく。そして、その傷の上にまた傷を、痛みを重ねていく、)

浅く息を吐き、ハヤトの髪をそっと梳く。包帯の厚く巻かれた箇所を静かに撫でる。
結局のところ、赦されるのはこうして傷を知覚する事(それも事後に)くらいのものだ。何も生まない関係だと思った事は一度も無いが、癒しに帰着する関係だと思った事も無い。それでも手離す事が出来ないのは、俺がそれさえ躊躇しているからだろう。
ああ、それじゃあやはりそれが、臆病が原因なんじゃないか(俺が手を離しさえすれば良い話で、そうすれば彼は他の誰か、代わりに幾らでも血を流してくれる人間を容易に見つけるだろう)。
そう思い、枕元で嘆息するくせに、何時までも憐れな少年に触れる手を離せない。ハヤトは目を覚まさず、浅い寝息を立てるばかりだ。
そのあどけない寝顔、不釣合いなガーゼ。
目を逸らす事をしたくない俺は臆病なままで、それどころか、ブランケットから引っ張り出した彼の白い指先を握り締めさえする。離したくはなく、離されたくもない。けれど、離さなければならなくなったなら、離してしまうだろう。ならば、直ぐにでも離せば良いものを、それも出来ずにいる。
応える様に淡く握り返された指に残る傷痕に、ただ哀しい息を漏らす。
如何在っても彼にしか手を伸ばせない事を、この身体を占めるもので理解する(それが俺達に痛みばかり齎すと知っても)。

リリィ・リヴァード [side:D]

2007.6.1   上 au,舞流紆
ディーノと獄寺の"傷"に対するシンクロ率は高いだろう、という妄想。












































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