蓋が、出来ない。
彼を見た瞬間にいろいろな感情が綯い交ぜになってしまって、そうして、思いつく限りの美しい言葉や比喩がこの身体を満たしてしまって。
だから、蓋が出来ない(せり上がって、しまう)。


「ハヤト、好きだ」
「…っ、バ」

莫迦かテメェ、いっぺん果てろ。
そう唸った彼は、街中にも関わらずやおらダイナマイトを取り出して、煙草の先を赤くする。薄蒼い煙が、まるで靄の様に俺達の間に横たわる。俺は何と返答したら良いのかがよく解らなくて(だって、喧嘩を売っているわけじゃなくて、冗談でも無いのだ)、目を幾度か瞬く。瞬きながら、頭の奥の方では"好きだ"という言葉の用法について考えている。例えば、この言葉は自分が好ましく思う相手に向けて使うものであって、無条件に顔面を殴りつけたくなる相手に向けて使うべきものではない、という認識で間違ってはいないんだよな、とかいうような事を。
不本意な沈黙が落ちる。俺が黙っているせいか、ハヤトも怪訝な顔をして黙っている。ダイナマイトは彼の白い指先に挟まれたままだ。沈黙が落ちる。彼が銜えた煙草の先から、灰がほろりと落ちる。血管にはぐるぐると、美しい言葉と感情が巡る。

「は、跳ね馬?」

ハヤトが掌を俺の目の前でひらつかせた。ちらつく午後の陽光が、灰色の髪に淡く反射する。翠の瞳をはっきりと照らして、曖昧に透かす。
皮膚の下、或いは喉奥に、性懲りも無くせり上がる。
俺は、やはり、蓋が出来ない(一秒後には、ハヤトの握り拳が顔か腹にめり込んでいる、多分)。

アンシール

2006.12.15   上 au.舞流紆
もう一度言われたら、隼人は照れて、照れ隠しまくって終わりだ、多分。























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