ティエリアにその言葉を言われた時、かつて幾度か味わった事のある感覚を覚えた。既視感、というよりももっと無粋な、土中深くに埋めて乖離させた汚濁を、無理矢理に掘り起こされたような、そのような感覚だった。
俯いたティエリアを前に、言葉を詰まらせながら、俺は、呻きすらあげられずにいた。


双子というものは面白いほどに似かよるもので、俺たち(ニール・ディランディとライル・ディランディ)も多分に漏れず、それを踏襲していた。
玩具、服、本、好きな音楽や食物。大凡の部分において、兄さんと俺の好みは一致していた。
嗜好だけでなく、思考までもが鮮やかに一致するものだから、両親でさえ俺たちの見分けが付かない事も多々あって、幼い頃はそれが嬉しかった。鏡の向こうの自分が実体を得て、いつでも側に寄り添い、諸々の感情を共有してくれているような、満ち足りた日々だった。
けれども、たった一点だけ、たった一点だけは閉口せざるを得なかった箇所がある。
恋愛に関してがそうだった。趣味嗜好が全く一緒であったのは、何も玩具や服に限った事でなく、異性についてもそうだったのだ。
兄さんが好きになった子を俺も好きになり、俺が気に入った子を兄さんも気に入った。地球は丸い、水を熱すると蒸発する、というのと同じように、当然の事項としてそれは現れた。
そして、恋を司る女神がいるとするのなら、彼女は俺よりも兄さんを愛していたのだろう。
何故なら、彼女たちは皆、俺ではなくて兄さんを選んだのだから。


「…貴方は、ニール・ディランディではありません、」

たとえ俺がそう望んでも、そうはならない。
酷く憂えた表情をしたティエリアがそう言って、嘆息を漏らした時、俺は幾つかの苦い思い出を噛み締めていた。それと同時に、まさか男にまでそんな事を言われるとは、という衝撃と、兄さんが彼に手を出していたという事実に関する、場違いも甚だしい驚愕が、背中を駆け抜けていた(なにしろ、俺の記憶している彼は、全く正常な性癖を持っていたのだ)。
呻きすらあげられずに立ち尽くしていると、俯いていたティエリアは顔を上げて、「ですが、貴方は確かに俺の同志で、そして仲間だ」と小さく口にした。憂いを通り越した陰気な顔付きで、けれども、何処か甘さを帯びていた。そうして、と、と軽く通路の床を蹴って、去っていく。
その低重力に微かに靡く葡萄色の髪、細い後姿を眺めながら、俺はさらに苦いものを噛み締めていたが、それは先ほどまで噛んでいたものとは明らかに異なったものだった。否、異なっていたのではなく、くっきりとした色を持って表層に現れただけなのかもしれない。
それは、失恋であり、また、失われた筈の恋の発見であった。

『でも、貴方の事は良いお友達だと思っているわ』

そう言った彼女たちの微笑が一瞬だけ脳裏を過ぎり、それを押し退けて凌駕するほどに、ニールを失った哀惜に囚われた彼を美しいと思っていた(俺を拒みながら、俺に兄さんの面影を見ては、嘆息でその誤魔化しをする彼をだ)。
ニール・ディランディ亡き今、半身を喪った哀しみを共有する存在に足る、ティエリア・アーデが欲しかった。

とある男の厄介な恋の話 [case:L.D.]

2008.10.5   上 au.舞流紆
ライルとニールは中身がそっくりなんだと思い込んでいた頃の文、
ライルは僅かに歪んでいる気がする、






























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