trash

習作および文の残骸の倉庫
救済のご要望はメルフォや拍手からどうぞ、
(↑NEW ↓OLD)









「未成年は禁煙、だろ」

没収な、と笑いながら、煙草を銜えてしまう。今迄に彼に喫煙を咎められた事は一度も無かったから、単に自分が吸いたかっただけなのだろう。何処までもマイペースで、勝手だ。
取り返してまで元の煙草に固執する必要も無いので、仕方なく、ケースから新しいものを銜える。火をつけようとポケットを探って、そのためのライターを買おうと家を出た事に気が付いた。火を貰えばいいだけの話だが、この男に借りをつくるのはなんだか癪に障って、けれど、煙草をケースに戻すのはいささか格好が悪い。
考えあぐねていると、ふいに頬へ温かい指先が触れ、顔を右へ向かされる。

「…、」

見開いた視界は、ディーノの顔で埋まっていた。
取られた煙草は俺が既に半分ほど吸ってしまっていたせいで酷く短く、おかげで不必要に間が狭い。
ディーノは目だけで笑んでみせると、あとは目を伏せて火が移るのを待っていたが、その間、視線を何処へ投げていたら良いかが解らず、俺は硬直して動けずにいた。
ジ、と音をたてて、赤い火が灯る。

Dino×Gokudera from REBORN 『灰と距離』(20100719)
思うに、「煙草」というアイテムがアレなのだ。







指先は、ただ、滑った。
音も無い単純な動作だったけれども、電気を点けずにいる自室において、まして月明かりの下で見るそれは、酷く哀しいものであるように思えた。
携帯電話を握ったままで、腰掛けていたベッドへ仰向けに倒れ込む。指は往生際悪く触れている。ディスプレイに表示された番号は空でも言えるようになってから随分経った(もしかしたら目を瞑った状態でも押す事が出来るかもしれない)。
何時でもかけていい、と、ディーノは言った。何時でも出られるとは限らないけど、とも言って、そうして、眉を少しだけ寄せて笑った。
つまりは、「電話をするから待っていてくれ」、そして、「必ず出てくれ」、そういう事だ。
俺は「誰がテメーにかけるか、へなちょこ」と返して、それ以来、この携帯電話に関しては電池を切らせた事はない。
そういうわけで、番号を呼び出したきり、指先は通話ボタンの上を撫でるばかりで、力を込めるには至っていなかった。

Dino×Gokudera from REBORN 『アン・プライ』(20100606)
なんとか食い繋いでいるかのようなデノ獄がいとしい、







「おめでとう、とは、私は言わん」

首都栄転は君の努力が正当に評価されたが故の、然るべき結果だ。そして、これは君の望みの終着点ではない。そうだろう、スエード。
博士は此方を振り返らずにそう言った。
その手に忙しなく揺すぶられている試験管の、その中の溶液が、微かに湖面の音を立てる(底の方には砂のような薬剤が沈み込んでいて、どうやら彼はそれを溶かしきりたいようだった)。

「その通りです」

僕は答えた。じっとりと湿り気を帯びた歓びがあった。この人はその類の言葉を口にはしないだろうと思っていて、そうして、その予感が過たず的中したからだ。
湖面の音が鼓膜を打って、もうそれ以上の言葉は無い。
僕は博士の背をただ眺めていて、博士は試験管をただ揺すぶっている。

Dr.Thunderland Jr.& Goos from Letter bee 『ハルシオン・デイズ』(20100508)
スエードの栄転を一番喜んでいるのが博士だったらいい、







「あああ!」

そんな悲鳴が上がったのは、オレの左脚へどっしりとした重みが圧し掛かってきた時だった。
脚に乗っているものの関係でソファ代わりにしているベッドから立ち上がれず、仕方無しに顔だけを大声がした方へ向けると、ザジが肩をわなわなと震わせている。顔色は赤くなったり青くなったりと、血色の良さが伺えた(何時でも紙きれのように白い顔をしていたネロとは随分と違ったので、其処に関しては、彼は懸念材料にはならない)。どうやら、悲鳴を上げたのは彼のようだ。
「どうかしたか?」と問うと、彼は「えっ、や、あの、その、」というような言葉を矢継ぎ早に口にする。それから目を泳がせ、両手をせかせかと振り、そうして、最後には顔色を青に固定して叫んだ。

「お、お、降りろ!ヴァシュカ!」

お前、ジギーさんになんて事してんだよ!すいません、ジギーさん、すぐどかしますから…、て、おい!何落ち着いてんだ、莫迦!
真っ青になった彼はすぐさま飛んできて、オレの左脚の上へ前足と顎を乗せている彼の相棒を引き摺り下ろそうとする。だが、普段はあれだけ聞き分けの良い筈の彼の相棒は、頑なに其処を動こうとはしなかった。
BEEという職業に就いている以上、腕っ節は弱くは無いだろうが、やはり獣のそれとは次元が違う。とうとうヴァシュカの腰を抱え、引っ張ろうとしたザジに、少し手を振って、青黒い毛並みを撫でた。

「構わないさ」

Jiggy & Zazie from Letter bee 『Greening』(20100405)
丘の上にジギーさんを設置したら鳥とか鹿とか寄ってくる、たぶん、







「…という事は、差出人の父親には会えなかった、と?」
「ええ。テガミが届く前に亡くなられていたものですから」

テガミを返した時、彼は泣いていました。"ろくに親孝行もできなかったどころか、たった一人で逝かせてしまうなんて"、と。それを見ていたら、なんだか胸が詰まってしまって…、といっても、まあ、両親のいない僕の胸が詰まるというのもなんだかおかしな話ですが。
スエードはそう言って苦笑をした。
私は肩を竦める。

「親孝行というものは往々にしてそういうものだ、スエード」
「そうなのですか?」
「そうだとも。存分に親孝行できる者などほんの一握りだろうさ」

人間という生き物はな、死を常に恐れている。それも、非常な強さでだ。生物としての本能に加えて、理性がそうさせるのだから、その思いを消すことは容易ではない。では、何時死ぬか判らないのに、何故平然と生きていられるか?…答えを出すのは容易い。忘れるからだ。日常において死を忘れることで、人間は死への恐怖を克服する。だから、唐突に親を亡くしては「ろくな孝行もできなかった」と嘆くのだよ。

Dr.Thunderland Jr.& Goos from Letter bee 『明日視る夢の話』(20100405)
親孝行について考えていた時に書きました、







眼前の顔は見知ったそれであって、唇へ押し付けられた淡い温度も遠い記憶の中のそれと凡そ違わずにあった(頬を掠めて震える睫毛の先の具合や、首の傾げられ方もだ)。
ややあって、ベッドから身体を起こし、私は呻いた。

「なんのつもりだ」

不快よりも疑問が先立っていた。
つい先日まで寝たきりだった男は、つい先程まで私の口を塞いでいた唇を舌先で薄く舐めずると、「あまりにも寂しかったものですから」と答える。人の貴重な仮眠を台無しにしたにも関わらず、悪びれる様子も無い。その表情は、私の知っている男であれば務めて浮かべないように心掛けるか、そもそも浮かべもし得ないような、まるきり冷徹にして、何処か無機質なものだった(導き出される解は単純だ。私の知っている人間ではない、というだけの)。
「……何も私のような鼻抓み者をわざわざ選ばなくとも、君には他にも幾らかいるだろう」と言ったのには、「彼らが望んでいるのは"ゴーシュ・スエード"です。僕ではない」との答えが返ってくる。

「初めから感づいていたでしょう、博士。僕の事に」
「…期待を裏切るようで悪いが、感づいていたのではない。可能性の一として考えていただけだ。私だけでなく、ガラードも疑っていた」

君が本当に"ゴーシュ・スエード"であるのかどうかは。
言い終えないうちに、また唇へ淡い熱が触れる(やはりこれは私の知っている男ではない)。

「ああでも、もう関係がない」

貴方がそうであったか如何かなど。
口を僅かに離して、彼はそう独りごちた。

「"僕"が貴方を欲しいのだから」

間近で冴えたセピア色が瞬く。

Dr.Thunderland Jr.& Noir from Letter bee 『これは貴方のための歌』(20100405)
博士←←←←←ノワール(※すごい病んでる)とかどうですかたぎりませんかだめですかそうですか、







「私は君の成したい事を理解しているつもりだ。君が私を理解しているように、私はそれをしているつもりだ。であればこそ、今迄君に何も言ってはこなかった。成し遂げるためにはやむを得ない事だと理解できたし、それを言う資格も恐らくはないだろうと思ったから。…だから、スエード、私がこの事を言うのは、余程の事であるというのを、どうか君にはわかって欲しい」

そのような長い前置きをして、博士は言った。

「君は心弾を撃ち過ぎている」

君は、君が思っている以上に疲弊している。いや、疲弊どころではない。磨耗だ。このままでは、いずれ取り返しの付かない事になるだろう。

Dr.Thunderland Jr.& Goos from Letter bee 『ブランシェ』(20100110)
「ルシエリ」のボツ原稿。失踪直前のスエードと博士。







「五年前に、変化を考える必要があったのだろうか」

私は何の真理も得ていない。君に至っては、こんな有様になってしまった。
問いかけに返事は無い。天井さえも映さないセピア色の瞳が、如何して私を見るだろう。ゴーシュ・スエードは確かに此処に存在したが、それと同時に、彼は未だ何処へも存在しなかった。

「君はどう思うかね、スエード、この現状を」

問いかけに返事は無い。
投げ出された彼の身体は、白いシーツに溶けて無くなっていくようだった。
思わず掴んだ手は冷えている。だが、もはやそれだけが私と彼とを同じ存在たらしめるものであった。

(それでも、私達はああするしか無かったのだ。ああして足掻くより他になかったのだ)

Dr.Thunderland Jr.& Goos from Letter bee 『ソ ・ブラウ』(20100110)
「ルシエリ」のボツ原稿。帰還直後のスエードと博士。







「ロックオンは今忙しいんです。話があるなら僕が聞きます」
「忙しい?なんだ、兄さん、仕事でも持って帰ってきてるのか?」
「まさか。ロックオンは優秀ですから仕事を持ち帰ったりはしません」
「じゃあ、何が忙しいんだよ」
「今日発売の『ボクはメイドさん 〜ご主人様だぁいすき〜』と『ツルペタ病棟25時』をプレイしていて忙しいに決まっているでしょう。真剣にプレイしながら萌えたり、時には自慰行為に及んだりしているんです。わかったらさっさと何処かへ行ってください」

Neil×Tieria from G-00 『おたにる。〜拝啓リジェネ、俺の心は折れそうです〜』(20100103)
ニールさんの萌えはティエリアさんが守っています、鉄壁、







「ティエリアさんはニールお兄ちゃんの何処が好きなの?」
「全てです」
「オタクなところも?」
「何かを一心に愛する心は素晴らしいと思います」
「すっごいヘタレなところも?」
「彼は他人を気遣うあまりに引っ込み思案になっているだけです」
「料理もあんまりできないし」
「僕と違ってフライパンは爆発しません。せいぜい料理が炭化する程度です」
「おまけに、その、…仮性包茎だし?」
「きちんと勃ちますから性交時にこれといった問題はありません」
「噂によると、ちょっとマニアックなプレイも好きなんだとか聞くけど?」
「僕はロックオンが「着ろ」と言うならメイド服でもナース服でもチャイナ服でも着る覚悟があります。彼の性癖はリジェネから全て聞いていますから、習得できうる限りのことは身体に叩き込みました。彼が要求してくることはあまりありませんが、いざそうなれば、相応の対応はできるつもりです」

きっとロックオンは僕に気を遣っているんです。ああ、労しい。
頬に手をあてて、ほう、と溜め息をついているティエリアさんを見て、エイミーちゃんは思いました。

(ほ、本物だわ…本物のお莫迦さんなんだわ…!)

Neil×Tieria from G-00 『おたにる。〜彼らは本物〜』(20100103)
エイミーちゃん相手でもティエリア節は炸裂していそう、








彼はまだ彼の兄に酷く執着をしているようだった。とうに諦めた僕とは違う。人間の浅ましさだ。そして、愚かしさでもある。

「……汚ぇ顔」

幾つかの種類の体液でべとべとに汚れた僕の口許を親指で拭い、ライルが哂った。
声の端は聞き苦しく掠れていた。

Lyle × Regene from G-00 『だから、可哀想な貴方に僕はお似合い』(20091224)
ニルティエ大前提なライ→ニル、リジェ→ティエ前提のライリジェ、
案外諦めるのはリジェネの方が早そうかなと思う、究極的に女々しいライルはプライスレスかなと思う、







「…オレは、テガミバチの仕事に愛着がある、」

やり甲斐も見出だしている。お前がいう"テガミバチ"に、多少は近いのじゃないかと思う。だが、もしラグのような存在こそがテガミバチだというのなら、オレはテガミバチではないな。
故郷に教会を建てるためにハチノスへ来た。一旗上げようと思って、テガミバチになったのさ。ヨダカの人間がアンバーグラウンドで実の在る物を掴もうと思ったら、手段は限られている。
……オレとお前の心弾が違うように、オレとお前の"理由"も違う。勿論、ラグの"理由"とも違うだろう。限りなく似る事があったとしても、其処に心が通う限りは全く同じものは存在し得ない。ましてや、それに優劣を付けることなんざできやしないんだ。

Jiggy & Zazie from Letter bee 『デルニェル・ナージュ』(20091224)
前ふりとして「憎しみにかられて鎧虫相手に心弾をバカスカ撃ちまくってひっくり返ったザジをジギーさんが助けて、ザジから彼が鎧虫に固執する理由とそれによるコンプレックス?のようなものを聞きました」というのが、あります、(長、)
ザジが赦されて泣く日はいつくるのだろか、







「俺もぺったんこが好きだ、て言ったろ」
「付け足しみたいにね」
「なんだ、聞こえてたんなら返事くらいしろよな。『僕も愛してるー!』とか」
「あの状況で?街中の笑い者じゃないか」

そんなのは御免だよ、と続けたリジェネさんは肩を竦めてみせましたが、けれども、すぐに訝しげな表情をしました。
ライルさんがなんだか締まり無くにやにやと、いいえ、でれでれと笑っているのです。

「何をにやついてるんだい?気持ちが悪いよ」

リジェネさんがそう言って顔を顰めると、ライルさんはでれでれ笑いのまま、リジェネさんをぎゅうぎゅうと抱き締めて、こう言いました。

「や、『僕も愛してるー!』は否定しないんだな、と思っただけでさ」
「…嫌なところばかり気が付くね」
「知らなかったか?良い男は言葉の行間を中心に読むんだぜ」
「行間を読んで屈折した解釈をする、と言った方が良くはないかな」
「別にそう言ったってかまいやしないが、俺が"良い男"なのは事実ってことだな」
「…もう勝手にしなよ」

Lyle & Regene from G-00 『採用されなかった、ライルさんとリジェネさんと一冊の本のおはなし』(20091210)
ペラペラ本『へんてこ4人組と一冊の本』のライリジェ編ボツ原稿、
最初はエロ本が無くなった後のライリジェも書くつもりだったのですけれども、色々あってやめました







ストラトス伯は大きな木の幹に凭れかかって、すやすやと眠っていました。
どうやら畑仕事の休憩中に瞼が重くなってしまったようです。
腕まくりをしたシャツや泥だらけの手もそのままに、静かに寝息をたてています。
ティエリアさんはヘイゼルのくるくる巻き毛が春風にふわふわしているのを暫く眺めた後、自分もストラトス伯のお隣、大きな木の根元へ腰掛けて、その幹へ背中をくっつけました。
大きなとんがり帽子を取って、そうして、目を閉じます。
ストラトス伯の真似っこをすると、大抵じんわりとしたような、ふわふわしたような、不思議で心地よい気分になるものですから、今度も真似してみようと思ったのです。

Lord Stratos & The wizard Tieria from G-00 『ティエリアさんと木陰の休息のおはなし』(20091120)
ティエリアさんの真似っこ学習、







「お前は平気なのか?あれだけの人間に囲まれて、その生活を見て、それでもお前は人間の血を吸えるっていうのか?」

ストラトス伯は言いました。

「吸えるさ。自分が吸血鬼だっていうことを俺は知ってるし、リジェネ以外の人間なんかどうなったってかまわない。あいつが他の人間の血を吸うなと言うから吸わないだけだ」

俺は、自分の手に負えないものまで守ろうとは思わない。
ライルさんはそう答えました。
あばら家の井戸端で、二人は静かにお互いの顔を眺めています。
その顔だの身体だのの造りは全くおんなじように見えましたが、中身はまるきり違っていました。

Lord Stratos & Lyle from G-00 『ストラトス伯とライルさんの井戸端会議』(20091120)
ストラトス伯は100の持分を100等分して100人に配る型、ライルさんは100の持分を100のままで1人につぎ込む型、







「俺さ、今日仕事の帰りに本屋に寄ったんだよ」
「…懲りないね」
「ち、違う!健全な読書のためだ!」
「……そう」
「なんだよ、その間!信じろよ!…それで、色々本を物色してたわけだ。いかがわしくないやつを」
「わかったよ、いかがわしくないやつを、ね。…それで?」
「ものすげえ怖い題名の本があったから、ちょっと興味が沸いて買って帰ってきた」
「へえ。もう読んだのかい?」
「読んだ」
「感想は?」
「なんていうか…、夢見がちな話だった」
「怖い題名だったのに?」
「ああ、怖い題名だったのに」

なんか気合入れて読み始めただけに、気が抜けちまって。
ライルさんはそう続けながら、リジェネさんに小さな本を抛って寄越しました。
リジェネさんは片手で上手に本を捕まえると、表紙を見ます。
そうして、小さく噴出しました。
本の題名は、確かに吸血鬼にとっては非常に恐ろしく、けれども、人間社会では恐ろしい内容のものとしては扱われることの少ないものだったのです。

"灰かぶり"

本の背中にはそんな文字が並んでいます。

「まさか家事仕事でいつも灰だらけになってる女の子のあだ名だなんてなあ。俺、てっきり吸血鬼を撃ちまくって年がら年中灰だらけになってるハンターの話かとばっかり」

ライルさんはそう言って、クッションへ顔を埋めます。


Lyle & Regene from G-00 『ライルさんと恐ろしい本のおはなし』(20090913)
実は"灰かぶり"は吸血鬼社会でのリジェネさんのあだ名、とかいう設定でも面白いかもしれない、







その日、家庭菜園兼薬草畑でマンドラゴラのお手入れをしていたティエリアさんは、畑の隅っこにある古い切り株へ見たことの無い花が咲いているのを見つけました。
その花は切り株の縁の部分から伸びた細い枝の先に咲いていて、明るいピンク色をしています。
花弁は五枚で、全体的に丸みを帯びているのですが、先っちょにはVの字の切り込みが入っています。
おしべやめしべは細かな糸のようになって、花の真ん中へあります。
その姿はそう珍しいものでもなかったのですが、けれども、ティエリアさんは興味津々でした。
何故って、その花全体が、まるでノーラの花のように硝子質でできていたからです。
花弁も枝も、それに、枝から伸びた小さな葉っぱも、お日様の光にきらきらと光っています。
匂いはどうやら無いようです。
そして、何処も彼処も(枝も葉っぱも)明るいピンク色をしていて、ティエリアさんが爪で突っつくと、コンコン、と硬い音がしました。
ティエリアさんは一通りその花を眺め回すと、ひとまずそっとしておいて、明日また見に来ようと思いました。
彼の使命はお薬に関するヴェーダさんの研究の継続と発展でしたから、材料になりそうなものは詳しいデータを取る必要があるのです。
それに、毎日畑に来ているストラトス伯にもおはなしを聴いておいた方がよさそうだとも思いました。
ですから、あばら家へ帰ったティエリアさんは、早速ストラトス伯にその花のことを尋ねたのです。

「切り株、て、あの隅っこにあるやつか?俺、今朝も畑をいじった後にあの切り株に座って休んだが、その時にはそんなもん生えてなかったぞ」

ストラトス伯はそんな風に言って、首を傾げてみせました。
ティエリアさんは、ますます興味津々です。

Lord Stratos & The wizard Tieria from G-00 『ティエリアさんと不思議な花の観察日記のおはなし』(20090913)
春に書こうと思っていて力尽きました、







さて、運命の日です。
めしょっ、という音と一緒に、ニールさんの肩からショルダーバッグが地べたへ落っこちました。
そんな彼の目の前には、おんなじ顔が二つ並んでいます。

「ライル、ニール、紹介するよ。僕の兄弟のティエリア。ティエリア、向かって左が僕の恋人のライル、右がライルのお兄さんのニール」

リジェネさんの紹介に、ティエリア、と呼ばれた男の子は、黙って頭を下げました。
淡いグリーンのシャツに、綿の長ズボン。
春色ピンクのカーディガンの前は、几帳面そうに留めてあります。
リジェネさんとそっくりな顔の眉間には、リジェネさんには滅多にみられない皺が刻まれていました。

(うっわ、すっげえ扱い辛そう)

ファーストインプレッションの時点で、ライルさんはそう思っています。

(が、ガチすぐる…!!)

ファーストインプレッションの時点で、ニールさんはそう思っています。
当のティエリアさんは、地べたへ落っこちているニールさんのショルダーバッグ、そこにたくさんくっついたキーホルダーや缶バッチを「なんだこの異様な塊は、」という表情で眺めています。

Neil×Tieria & Lyle×Regene from G-00 『おたにる。・アナザー』(20090309)
初期設定時のティエリアさんは普通の人でした、(どうしてあんな方向にいっちゃったんだろう…)








あばら家へ戻ったティエリアさんは、古い木のテーブルの上に並んでいるお夕飯を見て、溜め息を吐きました。
今日のお夕飯は、自家製パンとコンソメスープ、白身魚の香草焼きにサラダです。
いつもならこれで全部なのですが、今日はバレンタインデーだからでしょうか、小さなガラスの小鉢には、チョコレートのムースが一掬い載っていました。
この間大きな街へ行った時に試食した、人気のお菓子屋さんの新商品に、なんだかちょっと似ています。
ティエリアさんがじっとそれを見つめていますと、ストラトス伯は少し苦笑いをしました。

「真似してみたんだが、まあ、本物みたいにはなかなか」

そんな風に言って、ムースの上へ、窓際のプランターから摘んだミントを載っけます。

Lord Stratos & The wizard Tieria from G-00 『採用されなかった、素敵なバレンタイン』(20090218)
バレンタイン文本編に「コンソメスープ」が出てきたのは、この献立の名残だったりします、







「兄さんがしたみたいに俺がアンタを守ると思ってるなら、そいつはとんだ間違いだ、」

生憎と、俺はまだ死にたくないんでね。
言うと、その細い身体が、ぐらりと傾いだ。酩酊者のように後ろへ二、三歩後退り、けれども、それ以上の失態を見せる事は無い。
俯いたティエリアは、僅かに唇を開いていた。俺に対する弁解の言葉を探しているようには見えず、ただ傲慢な哀しみに浸っているように思われた。
冷笑する。
今の言葉で彼がどれほど深く傷つこうが、知ったことではなかった。もっと傷つけば良いと思った。
兄は彼を傷つけなかったが、俺はそうではない。俺は兄ではない。
それを理解させるためになら、何を失わせても、何を失っても良いような気がしていた(痛覚が事実としての傷を知覚させるのは、壊死を回避するためなのだから)。
葡萄色の髪が零れかかる胸倉を、乱雑に掴む。冷笑は消さない。
ティエリアの唇は、まだ僅かに開いている。

Lyle×Tieria from G-00 『エスト・モルト』(初出:200809??、改稿:20090115)
ライルが憎まれ役を買って出たら最高だと思う、
その奥底にサディスティックな何かと羨望と憎悪があって、それを半ば正当化するためのツールとしての『憎まれ役』だったらさらに最高だと思う、







ある晴れた冬の日の夕方、クリスマスの幾らか前の日のことです。

「七面鳥?」

ライルさんが言った言葉を、お仕事に行く支度をしていたリジェネさんは鸚鵡返ししました。
すると、ライルさんが今しがた届いたお手紙をヒラヒラと振って、答えます。

「クリスマスのディナーにターキーを作りたいんだが、良い肉屋を知らないか、だとさ。相変わらずだなあ、兄さんも」

凝りだすと止まらない、ていうか、面倒なのが大好き、ていうかさ。
お手紙をテーブルへ置き、肩を竦めて苦笑しているライルさんに、リジェネさんもちょっとだけ笑います。

「少なくとも面倒なのは大好きだろうね。なにせティエリアと暮らしているのだから」
「ああ、そりゃ言えてる。でも、その点に関しては俺も随分な面倒好きだと自負してるぜ、なにせお前と暮らしてる」
「暮らしてる?"ぶら下がってる"の間違いじゃないのかい?此処の世帯主は僕だし、生活費を稼いでるのも僕だよ、ライル」
「うっ」

そこを突かれると痛い。
そう呻くライルさんに、リジェネさんは、これを機に勤労吸血鬼にでもなったら、なんて意地悪を言いながら、肩へコートを引っ掛けました。

Lyle & Regene 『採用されなかった、とある冬の日のおはなし』(20081220)
クリスマス本オプショナルツアーの没原稿、ライルさん=ヒモの法則、







「…これはなんですか?」
「オデンだよ」
「オデン?」
「東の方の国の、そうだなあ、ポトフみたいなものらしい。まあ、煮込み料理だな」
「そうですか。…色々入っているようですね、これは?」
「それはガンモ。その白いのがハンペンで、穴の空いたやつがチクワとかいうらしいぞ」

オデンの具をおたまで沈めているストラトス伯は、どうやら味の最終調整に入るみたいです。
初耳な単語の連発に顔を顰めたティエリアさんは、鍋からにょきっと突き出た青い葉っぱがどうにも気になったので、ストラトス伯が塩を取りに行った隙に、器用にも大きなフォークで引き摺り上げました。

「キャーーーーーーーー!」

途端に上がったものすごい金切り声に、ストラトス伯が吃驚仰天して振り返りますと、其処にはティエリアさんの姿はありません。
いいえ、正確に言いますと、"ストラトス伯の視界の中には"ありませんでした。
部屋の中にいたことにはいたのですが、床に伸びてしまっていたのです。
その手が握っている大きなフォークには青い葉っぱが絡んでいて、その青い葉っぱには根っこのような形の何かがくっついていました。

「やっぱりダイコンの代わりにマンドラゴラを入れたのは失敗だったか…、」

気絶しているティエリアさん(品種改良をして殺傷能力を低下させているとはいえ、マンドラゴラの悲鳴を間近で聞くのはまだ危険なようです)を見て、ストラトス伯は真面目な顔で唸りました。

Lord Stratos & The wizard Tieria 『ストラトス伯とティエリアさんと東洋のご飯のおはなし』(20080901)
サイトを覗いてくださってる方と「ストラトス伯とティエリアさんとおでん」な会話が勃発したので書いてみました、
(妙な話に乗ってくださってありがとうございます、>Y様)







何処で間違えたのか、とは、もう考えるべき、問うべき事項ではない。
初めから間違えていたのだ。
始まる前から終わっていたと言っていい。
ディーノがボンゴレを消し去った時、獄寺がディーノに対して憎しみを抱き、復讐を誓った時には、既に"閉塞"が現象として存在し、機能していた。
あの日の獄寺が、如何して今日の己を知り得ただろうか。
自らの総てを賭して憎んだ男を、自らの総てを奉げてもいいと思う程に愛している。

「…どうか、してる」

獄寺は額に手を当て、薄く笑いながら呻いた。
呻いても変わらない真実があった。
何時でも俺を殺しに来い、そう言ったディーノの声ばかりが、身体の内側を巡っていた。
処理の済んでいない書類が積まれたデスクの、その一番上の抽斗にしまわれた物を思う。
不吉な猫の色をした拳銃。それを使う時が来るのならば、狙う場所はたった一つだった。

Dino×Gokudera from REBORN 『トリフォイル』(20080823)
ボンゴレを潰したディーノが生き残った獄寺に「俺の右腕になるのなら、何時でも俺を殺して良い。もちろん俺は抵抗するが、」と言って始まる感じの薄暗い右腕物語でした、







空の胃袋にはスープがじわじわと染みた。舌は懐かしさを味わい、同時に優しい思い出さえも拾い上げる。
ティエリアは黙ってスープを口へ運んでいた。俺には彼の好き嫌いはよく解らなかったが、彼は肉体の維持に必要と思われる栄養素さえとっていればいいというような節があるせいか、それとも、単に口にあったのか、不満が出ることはない(できれば後者が望ましいことは言うまでもない)。

Lockon×Tieria from G-00 『或いは、温かいスープ』(20080722)
コンセプト短篇集準備稿







唾液を絡めながらしゃぶりあげると、ぐ、と質量が増す。無理をせずに口を離し、けれども、すぐに先端へ舌を這わせた。窪みをなぞる動きに被さるように、頭上で熱い吐息が漏らされる。

「気持ち良い、ハヤト、」

良すぎて、あんまり保たねーかも。
ディーノが眉を寄せながら笑う。舌が唇を舐めずる。堪らない表情、そして、仕草だった(セックスアピールと見做すには十分だった。俺を興奮させるにもだ)。そんな僅かの動作や、噎せ返るほどの濃密さに、頭の奥が麻痺したように痺れる。親に乳を強請る子供の必死さ、それには無い淫靡な衝動に駆り立てられるまま、滅茶苦茶に舌を擦り付けて吸いたてた。夢中だった。気持ち良いと言ったディーノの顔しか浮かばず、もっとそうなって欲しいと思ったし、自分もそうなりたかった。否、既にそうなっていた。彼に齎した快楽が、そのまま俺の快楽だった。
薄く浮き出た血管を注意深く舐めると、ディーノの手が些か乱暴に髪を掴んでくる。もう随分とせり上がってきているのだろう。彼はあまり飲ませたがらない性質だった。なにより、口腔に迎え入れたものは酷く熱く膨張し、時折痙攣するかのように震えている。

Dino×Gokudera from REBORN 『ネーファス』(20080722)
献身的な獄寺を書こうと思ったら何か間違った方向へ献身的になってしまった、







今日のストラトス伯は、ちょっといつもと違います。
真っ黒なタキシードや長い長いベロアのマントは着ていませんし、シルクの手袋もしていません。
草で染めた麻のシャツとズボンと革のチョッキを着ています。
エナメルの靴の代わりには、よくなめした革の靴を履いていました。
所謂、村人の格好です。
ティエリアさんも、いつものだぼだぼローブや大きなとんがり帽子を脱いで、春色ピンクなカーディガンを着てます。
二人は、街へお買い物をしに出掛けようとしているのでした。
ティエリアさんの生活は基本的に自給自足でしたが、やはりまかないきれない部分もありましたので、その辺りの物資を調達するためです。
ところが、ティエリアさんは大の街嫌い。
あばら家のドアを開けた時から不機嫌で、街の入り口に辿り付く頃にはすっかり黙りこくってしまっていましたから、ストラトス伯は、どうしたものか、と考えています。

Lord Stratos & The wizard Tieria 『ストラトス伯とティエリアさん、街へいく』(20080524)
お買い物デートとかしたらかわいいと思う、ストラトス伯は買い食いを覚えたらいいと思う(庶民化がすすむ…)








夜になり、屋根の上でふくろうが低く鳴いて、ティエリアさんは、ある事を思い出しました。
椅子を立って、ベッドの脇の小さな引き出しを開けます。
テーブルに戻ると、ストラトス伯がティエリアさんのカップにホットミルクを淹れているところでした。
「如何かしたか?」と首を傾げたストラトス伯に、ティエリアさんは言います。

「お返しします」

差し出したのは、お洗濯済みのネッカチーフでした。
「ああ、」と気軽に受け取ったストラトス伯でしたが、すぐに、ちょっとおかしな具合になっている事に気が付きます。
ネッカチーフが、ではありません。
ティエリアさんが、なんだか口をもごもごと動かしているのです。
ストラトス伯は勘が良い方でしたし、ティエリアさんの中身をそれなりに知っていましたから、ティエリアさんが何を考えているのかといった事も容易に解ってしまったので、黙って待つ事にしたみたいです。
長く長く、待ちました(のんびり屋さんの気があるストラトス伯にとっても、長く長く、です)。
けれども、最後には、ティエリアさんが長く長く溜め息を吐いてしまいましたので、ストラトス伯はティエリアさんをぎゅっとして、「どういたしまして、」と言いました。
ティエリアさんは、ストラトス伯の長い長いベロアのマントの端を、少しだけ握りました。

Lord Stratos & The wizard Tieria 『採用されなかった、困った日々のおはなし』(20080524)
ペラペラ本『ストラトス伯とティエリアさんの困った日々』の没原稿
当初は告白後の話も入れる予定で、ネッカチーフはそこで返される手筈でしたが、それがなくなったので没文になりました








私には、何か、勿体無い物のような気がしている。
彼の手が触れる時、その無二の熱を、私が無数の電気信号として記憶する時。

Lockon×Tieria from G-00 『トルバドールの単一夢想論』(20080524)
リルケの詩集を読んでいる時に降ってきました







声がした方を向いて、ティエリアさんは心臓が縮む思いがしました。
なんとストラトス伯は白い花を、テーブルの上の瓶に入っているのと同じ白い花を、両手一杯に持っていたのです。

(どんな強力な呪いをかけるつもりだ、ロックオン・ストラトス!)

ティエリアさんは声も出ないほどの恐慌状態に陥っていましたが、そんなティエリアさんには気がつかずに、ストラトス伯は白い花の入った瓶の口へ、次々と花を差し込んでいきます。
一本しか花の無かった瓶は、あっという間にいっぱいになり、二本の花が入りきらずにストラトス伯の真っ白な手袋の上に残りました。
ストラトス伯は暫く考えて、ティエリアさんの方を向くと、とても嬉しそうににっこりしました(ティエリアさんにはその笑顔がとてつもなく恐ろしいもののように見えました)。
近づいてくるのに合わせて後退りますが、狭いあばら家でしたから、すぐに背中へ壁がついてしまいます。
白い花を持ったストラトス伯の手が伸びてきて、ティエリアさんは思わず目をぎゅっと瞑りました。
左耳の上辺りの髪が、くしゃ、と小さく音をたてます。
たてた、だけでした。
爆発音も、呪いが身体に滲みる嫌な感触もありません。
恐る恐る目を開けると、目の前のストラトス伯はやっぱりにこにこしていて、自分のタキシードの胸ポケットとティエリアさんとを交互に指差して、言いました。

「お揃い」

見ると、ストラトス伯のタキシードの胸ポケットから、例の白い花が顔を覗かせています。
後ろを振り返ると、鏡の中のティエリアさんの耳の上へも白い花が揺れていました。

「おそ、ろい」
「そう、お揃い」

鸚鵡返しに口にしたティエリアさんに、ストラトス伯はやっぱりにこにこします。
ストラトス伯はメルヘンな見た目を裏切らないロマンチストでしたから、些細な事にもたいそう喜ぶタイプでした。
けれども、ティエリアさんには全く意味が解りません。
"お揃い"という言葉の意味はわかっても、それで如何してストラトス伯がにこにこしているのか、彼には理解が出来ませんでした。
硬直しているティエリアさんを余所に、ストラトス伯はテーブルの上の花を整えています(ストラトス伯はこういう事にはわりと拘る吸血鬼です)。
それを見て、ティエリアさんは重大な事を忘れていたのに気がつきました。

「ロックオン・ストラトス、」
「ああ、これか?部屋があんまり殺風景だったから、つい。でも、綺麗だろ」

和むよなあ、と、またにこにこするストラトス伯に、ティエリアさんはどっと疲れを感じました。
テーブルの上の花は呪いでもなんでもない事(つまり、精神衛生に関わる環境の改善、ストラトス伯はただそれを遂行しただけなのだという事)に、ようやく思い到ったのです。
長い時間を無駄にした、ティエリアさんはそう思いました。

Lord Stratos & The wizard Tieria 『採用されなかった、お花のおはなし』(20080430)
ファンシーにもほどがある、と思ってやめた文です、







生きている。ティエリア・アーデは生きている。
僕にはそれが解った。研究所の愚昧な人間には、たとえ彼らの一生を割いたとしても解らないだろう(ヴェーダが知っているかは解らない、ヴェーダの意思に触れる事は出来ない、あれはもっと大きなもの、複雑なもの、神の考える事は解らない)。
僕にはそれが解った。身体中の細胞が叫んでいた。
身体中を伝う薄蒼い培養液が、羊水の温さで滴る。睫毛へ滴を結ぶ。

(排除せよ、破壊せよ、駆逐せよ、同化せよ、すべて、)

一期後リジェネ覚醒妄想 『踏みつけるもの総て薔薇になれかし』(20080423)
リジェティエがなんらかの形で繋がっているといいかもしれない、







ハヤトは酷く曖昧な様子で笑ってみせ、俺は何故かその表情を、屋敷の物置にあるテラコッタ像のようだと思った。
突き詰めて考えてみればそれは当然の事で、彼が長い事暮らしている島国にはそういう笑い方を得意とする民族が住んでいるのだ。それに、彼自身、その血を体内に持っている。

Dino×Gokudera from REBORN 『アルカイーク』(20080420)
「ほほえみのシルクロード展」だかなんだかを見に行った時に書いた文だったような気がします(何処までもファジー)







0と1とで構築してしまいたいのに、彼は0.5や0.92や、そんなようなニュアンスのものばかり捩じ込んでくるのだ。煩わしい。

Lockon×Tieria from G-00 『トリビアル』(20080420)
センスと感性は別物だと思います、という話の破片







ティエリアが好んだのは、柔らかなクッションでも愛くるしい人形でも美しいブーケでもなく、パソコンだった。店主に聞いたところ、このようなケースは極稀だという(それもそうだ。一体何処の世界にシルクのドレスを着てホットミルクを飲みながらPCを、それも恐ろしくマニアックなカスタマイズを施したPCを自在に操るプランツドールがいるだろう。俺にはヴェーダという人形職人の思考が全く理解できない)。
カタカタと、キーボードが忙しなく歌っている。奏でているのはティエリアの白く細い指だ。
朝食のパンを片手に横から画面を除けば、其処は0と1とで埋め尽くされていて、しかも、それらは1秒毎に4つだか5つだかの速度で増えていく。
それが何か、テレビコマーシャルで流されるピロリ菌の増殖の様子にも似ていて、げんなりせざるを得ず、テーブルに出しておいたヨーグルトを冷蔵庫に戻すはめになった。
腸を整えてくれるんだか、悪玉菌を退治してくれるんだか知らないが、菌を連想させるものは当分見たくない。勿論、ティエリアがプログラムを構築している時のディスプレイもだ。
冷蔵庫のドアを閉め、溜め息を吐いた俺の鼓膜を、コンコン、という音がノックした。ティエリアだ。振り返ると何時もの如く、左手はキーボードを叩きっぱなし、右手はホットミルクのカップの柄を握り、底をPCのデスクに軽く打ち付けている。数ヶ月間一緒に暮らしてみての見解からするに、催促のつもりらしい。解りやすく言うならば、おかわり、と、そういう事だ。

(その指の下にあるのが古式ゆかしいチェンバロの鍵盤だったら、どんなにか、)

もう一度溜め息を吐いて、鍋にミルクを沸かし始める。
小さな皿に載せた繊細な砂糖菓子は、この部屋や俺にはまるきり似つかわしくない。何処で覚えたのか、ティエリアがネット通販で取り寄せた輸入物の菓子だった(これを食べる時のティエリアといったら、それはもう本当にプランツドールの中のプランツドールと言ってもいいほどで、それを見る度に重度のPC依存症という奇天烈なオプションも愛らしいもののように思えてしまう。これだから男は単純で困ると思っているのに、一向に改まらない。本当に困る)。

Lockon×Tieria from G-00 『トルポルは午後に笑う』(20080420)
ネ申漫画『観用少女』パロディ。
今迄に色々な作品でこの漫画のパロディを書きましたがティエリアが一番違和感無い、植物だからか、







たまの休日だというのにも関わらず、ディーノと二人して狭苦しいアパートで燻っているのには理由があった。要約すれば、俺が出掛けたくないと言ったからだ。
日頃の無下な扱いを返上するかのように、こういった些細な事に対する要求を必ず呑んでくれる男は、傍らで読書をしている。そうしながら、時折寄りかかってきては犬の様にぐいぐいと頭を擦り付けてきたり、意味もなく名前を読んだかと思えば、読みかけの本の頁を突付いて「この字、なんて読むんだ」と尋ねてきたりした(ひらがなとカタカナは扱えるらしいが、漢字を覚えている暇がないのだそうだ)。

Dino×Gokudera from REBORN 『ポメリジオ』(20080109)
こんな午後の風景もありました







(ああでも、ハヤト、)

(お前が崩れ落ちて泣いても、そしてその後に優しいキスをくれても、きっと、俺はいつものようにその薄暈けた灰色の髪を撫でてはやれない、)

Dino×Gokudera from REBORN 『指先に淡い糸』(20080109)
ディーノに死亡フラグ







遠駆けには実に良い陽気で御座るな、と朝餉の席で何気なく零したところ、一刻後には竹の葉に包んだ飯やら水入れやらを持たされ、馬上に押し上げられてしまっていた。
惑いながら独眼竜の異名を取る男を振り返れば、「Hah?遠駆けすんだろ」とさも当然の様に宣い、馬の尻を叩いたので、そのまま駆け出して今に至る。
真鹿毛の馬は飛ぶように駆けたので、甲斐にもこれほどの馬はそうそうおらぬ、と感心するうちに興にも乗り、気付けば好き様に駆ってしまっていた。

Date×Sanada from BASARA 『岐ノ神』(20080109)
何かの文献で陸奥の馬はよく駆けると書いてあったので、
(タイトルの読みは「くなどのかみ」)








過ぎし日に容赦なく碇槍を振り回した男の手は、小さな菓子を摘み上げる。
「これ知ってるぜ、舶来物の、なんていったっけか」
独りごちながら咀嚼をし、唸っている。
四国と同盟和議を結び、鬼の眼が青灰色をしている事や、眼帯の下の目玉が使い物にならず、それどころか常人とは様子を異にしているのを知ってから、もう随分と年月がたった。馴れ親しむ、とまではゆかねど、傍らに居っても気にならぬ程度には和らいだと言えよう。人との親炙な交わりを絶っていた己にしてみれば、珍しい事だ。

Motochika×Motonari from BASARA 『斜陽』(20080109)
ほだされきってる元就の話








背筋を何か、特別冷ややかなものが伝い落ちた。
その無言の空間においては、酷く陰惨な瞳をした彼の、何の変哲も無い一挙手一投足の全てが威圧になり得る。ゆっくりと組みなおされる足、動きに攣られたロングTシャツの皺、安物の椅子の軋み、僅かに上げられた口角でさえも要素の内だ。
開きかけたドアに、俺は立ち竦む。背筋が粟立っている。こんな様子でいる彼を知らなかったわけではないが、しかし、恐ろしかったのだ。
暫く数枚の資料に目を通していたディーノは、携帯電話を手に取り会話を始めた。表情は変わらない。僅かに上げられた口角はそのままだ。
幾つかの言葉の応酬の後、男は笑う。

「ついでにごみを始末しておいてくれないか、…そう、件の」

続いた言葉は、何か知らない国のもののような響きをしていた。

「殺せ、一人も生かしておくな」

Dino×Gokudera from REBON 『アズライール』(20080101)
この電話の後に獄寺に向かってニコニコッと綺麗に笑っちゃうようなディーノがいる話でした







がち、と音をさせて延べ煙管の吸い口を噛むと、背後で竦み上がる様な気配がした。
「俺は腹が立ってんだ」
唸るように零すと、「相すみませぬ、」という声が、やはり背後からそろりと返って来る。振り返らずとも、衾に埋もれた男が弱く眉を寄せ、消沈しているのが知れた。
それでは虫が治まらず、また吸い口に歯をたてる。背後の気配は惑っていく。
真田幸村が奥州へ訪れたのは昨日の夕刻の話で、屋敷の門をくぐるなり馬上から転げ落ちたのには流石に驚いた。匙に見せれば、風邪だ、と言い、漸う目を覚ました男に尋ねれば、やはり病であったか、と答える始末だ。身体が優れぬのを押して、しかもまだ残寒厳しい奥州へ来るとは、どうやらただの莫迦でなく、どうしようもない莫迦であったらしい(だのに風邪をひくというのだから、大概が型破りな男である)。
「気分が優れねえ、と一筆送り返せば済む話だろうが」
「しかし、折角の便りで御座った故、」
「口答えか?いい度胸じゃねえか」

Date×Sanada from BASARA 『熱酔わば』(20080101)
そういえば拙宅には風邪のお話が一つもない…







餌をやり、躾などして飼い慣らしているのかと思いきや、そうではないのだという。
「別に飼っちゃあいねえよ。勝手に付いて来てるだけだ」
まぁ、来りゃあ飯くらいはやるけどよ。
長曾我部はそう言うと、肩へ乗せた鳥をちらと横目で見た。
極彩色の喧しい鸚鵡は眼帯のこめかみの辺りを突付いたり齧ったりしているが、男はそれを気にする風でもなく、好きにさせている。落ち着きなく羽を動かしたり、また、目を瞬いては首を傾げる様は、遊びを覚えたばかりの童に似ていた。
ふいに、鸚鵡が声をあげる。
「モトチカ、モトチカ!」
甲高く奇妙な声でそう喚き、男の肩から足を離して、そのまま外へ飛び立っていってしまう。細かな羽の幾枚かが抜け落ちる。青や赤、山吹色をしていた。

Motochika×Motonari from BASARA 『錦のすさび』(20080101)
チカナリとピーちゃん







彼は刀を抜き放つと、するり、と刃で兵の首を撫ぜた。憐れ、兵達は叫びをあげる間すら無く、次々とその首と胴とを別たれて、切り口から真紅の水を撒き散らす。頬に生温い体液が浴びせられる。血だまりに、四つの首と胴とが崩れ落ちる。
「Oh、まだ切れ味が鈍らねぇ。えらい名刀だな」
彼は笑い、俺は目を背ける。
先刻からこの繰り返しだ。幾人かずつ兵を連れてこさせては、俺の目の前でその首を落としていく。今の様に紙の如く斬るときもあれば、時間をかけて切り離すときもあるが、どちらにしても俺が苦しむのを観て彼が楽しんでいる事には変わりが無い。何も出来ず、ただ見届けるしか出来ぬ事も。
「次、連れて来い」
彼の声に、伊達の臣下が幕の外へと姿を消す。俯いた俺に、彼が囁いた。
「皆、アンタの為に死ぬんだぜ。可哀想になァ」
アンタが俺に気に入られたばっかりに。
声は呪縛のように絡めとリ、幕の外から新たに連れてこられた兵に、俺は嘆息をして瞳を閉じた。目を開けていると、首が落ちた時に血が入って痛いのだ。

Date×Sanada from BASARA 『逢魔々淵』(20070713)
嫌な方向にドSな殿、否応無しに適応し始める幸村。







「自分が悪い、て事を、」

解らなくちゃいけない。そうだろ、ハヤト。
ディーノは穏やかに、哀しい笑みを浮かべながらそう口にした。諭すに似た口調は罪悪感を酷く煽り立てる類のもので、俺は息苦しさを覚えたが、果たしてそれは正当なものだろうか、と虚ろな思考回路で黙々と考え続ける。
彼は如何してこんなに哀しい目をしているのだろう。
俺は如何して彼を見上げているのだろう。
彼は、俺は、如何して。
長い長い間、それでも答えない事に焦れたのか、フローリングに座り込んでいる俺の俯けた顔を両手で包むようにして上げさせたディーノは、唇にその哀しい笑みを張り付かせたままで、手を振りかぶった。

「…ッ、」

乾いた鈍い音が俺の頬の上に落ち、容赦の無いその衝撃に、みっともなく床へ倒れこむ。加えられた力には敢えて逆らわずに流したが、じわり、と鉄の味が口内に滲んだ。度重なる暴力に口の粘膜が切れたのだろう。今日だけで一体幾度打たれたのだろうか。
ディーノは嘆息し、苦しげに顔の右半分を覆う。

「今のも痛かっただろ、ごめんな」

でも仕方が無いんだ、お前が解ってくれないから、俺はお前の事を殴らなきゃいけない、罰だ、これは、罰なんだ、俺だって辛いさ、でもお前が理解してくれないから、俺はお前を殴らなくちゃ。
ディーノは俺を殴り、蹴り飛ばして、血が滲めば丁寧に其処を踏み躙った。

Dino×Gokudera from REBORN 『D or D』 (20070528)
Sデノ×獄を試し書き。S、というより…病んでる?







違う、ディーノ。それは違う。
あれは紛れも無く、弱みでしかない恋だった。守るために必死になる事を許さない恋だった。そんなものが、一体如何して俺達を強くしただろう。

Dino×Gokudera from REBORN 『ノーネーム、ノーフィアー』 (20070522)
10年後設定で、別れた後に再会したディーノと獄寺の話。







「赦せ、元親」
浅い息の内に漏らされた元就の言葉は掠れて、まるで閨での睦言のようだった。色がついているというのに透ける肌、青畳に乱れた絹の髪ざし、虚ろに焦点の定まらぬ視線。閨で見る彼そのままだ。
その痩躯を覆う薄物が、濁った紅に染め抜かれている事を除けば、の話であったが。

Motochika×Motonari from BASARA 『玉響』 (20070522)
死にかけてる所為か、元就が怖いくらい穏やかな話。







掌中の玉を愛でる様に庇護したいのか、紙屑の様に滅茶苦茶に切り捨ててしまいたいのか。どちらとも正しくは無く、どちらともが正しいと言える。二律背反する欲求は、しかし、要求する物が決して与えられないが故に、満たされる事も無い。ある種、正しい在り方だ。狭間にしか成り立たぬ関係においては。

Date×Sanada from BASARA 『啼かぬ烏、明けぬ夜』 (20070522)
『夜明け烏が唖唖と啼く』の没文。表現は戦国なのに書き方がリボーンぽくなってしまったので文を差し替えた思い出。







彼の匂いに安堵を得るほど長く二人でいた事が無いので、何時まで経っても慣れない。恥ずかしい、というよりかは、落ち着かないと言った方が正しい。無防備な状態で自分の傍近くに他人を迎え入れる時、そういう心地を覚える(凡そ生物の雄が自分のテリトリィに同種の個体を見つけた時の様に)。
なので、遠慮なくベッドに潜り込んで来たディーノに、思わず後退りをした。

「…何もしない、て」

心外そうに口にした彼は、次に眉を下げて、「俺、そんなに信用ないのか?」と呟く。その見ていて憐れになるほどの項垂れ様に、俺はつくづく自分の彼に対する適応能力の低さを呪った。これまでにも幾度かこうした事があったからだ。そして、その度に俺は弁明を出来ずにいる。

Dino×Gokudera from REBORN 『共有性領域理論』 (20070510)
常に落ち着かない獄寺さんと、ある意味可哀想なディーノの話。







檻の中には一匹の白兎と一人の男が入れられていた。
擦り切れた薄物を一枚纏っただけの男は、いかにも病人といった風な蒼白い肌をして、裸足で板の目に座り込んでいた。その骨と皮ばかりの手は、己と同じく囚われている白兎に労しげに触れている。薄汚れた顔はそこそこ整っているようだったが、決して美しいとは言い難い。しかし、そちらを向かずにはいられぬ様な、惹きつけられる様な、面妖な風情で其処に在った。
「そろそろ始まるらしいぜ」
前にいた見知らぬ男衆が振り返ってにやにやと笑い、元親はやや顔を顰めて成り行きを見守る。
ふと、男が上半身を崩れさせた。
地に両の手を突っ張り、まるで癲癇に襲われた時の様に身体を震わせている。薄い唇の端からは唾液とも泡ともつかぬ物を吐き出し、歯を犬畜生の如くに剥き出す。眼は異様にぎらつき、彼を取り巻く一切のものが獲物であるかのように激しく睨みつける。
兎はその様子に恐れをなしたのか檻の隅へと逃げ、縮こまり、その血色の瞳を男へ向けるものの、それ以上には抵抗の術を持たない。
そして、男は凡そ意味を持たぬ叫び声を発しながら、四つん這いの姿勢で兎に飛び掛った。
逃げ失せようとした憐れな動物の長い耳を掴み、片一方を引き千切る。噴き出した血が白い肌に散るのも気に留めず、苦しみに暴れ続ける兎の首根っこに噛み付いた。咬み傷からまた新たに鮮血が飛び、肉を裂いた後にもそれは踊る。胴と分かたれ投げ棄てられた兎の首は、檻の格子の隙間を抜けて観衆の足元に落ち、先程までその様子を囃し立てていた男衆は悲鳴をあげて後ずさった。
血濡れの生首と捕食の檻とを中心に人々は輪を成し、その空白に取り残される格好で元親は立ち尽くす。足が動かなかった。人々の声が遠い。閉じる事の出来ない右の目の先では、今や紅く染まった白い男が、すでに息絶えた兎の胴を抱え、その肉と腑を食い散らかしている。享楽と呼ぶには程遠いその姿は、まさしく獣であった。


Motochika×Motonari from BASARA 『月と花』 (20070508)
元親と犬神憑きの元就の話。







解らない事、というのは幾らでもあるが、ディーノに関しては本当に解らなかった。最近は仕事が忙しいのか、10代目のところはおろか、日本にすら来ていないらしい。
学校からの帰宅の途中、10代目が恐れ多くも自宅に誘って下さったけれど(勿論山本のコブ付きだ)、丁重にお断りした。少し前までの俺だったら、もう何を差し置いてでも、何がなんでも行っただろう。けれど、今はそういう気分には如何してもなれなかったし、それを無視して無理矢理に伺ったところで、恐らくは上の空だ。つまらない事で10代目に心配をかけるくらいなら、始めから行かない方が好いに決まっている。
相変わらず、10代目は俺の中での本当の中心を占めていた。ボンゴレの未来を担う大切な人、無くてはならない存在。行動の基準、動機、生きる意味も全て彼の上に在る。守るためだったら、命を投げ出したっていい。俺はこの方にお仕えするために生きているのだと、胸を張って言える。
ディーノは違う。俺は彼のためには死ねないし、そうしようとも思わない。けれど、ディーノには一番弱いところを見られた。それからキスも。俺には、俺達の間に横たわっている感情が一体どういう類のものなのかが解らない。友情、などというものは絶対に無いだろうし、これからだってそれが芽生える事なんか無いに決まっている。友達とはあんなキスをしない。あんな風には抱き合わない。でも、恋人というのとも違う。其処に至るための決定的な何かが俺達には足りず、そして、交わされていなかった。中途半端な位置でぶら下がっている自覚は在ったけれど、それで構わなかった。このままでいられるに越した事はない。ただ、如何にも落ち着かなかった。今ではもう文句の一つを投げつける事も困難になってきている。

Dino×Gokudera from REBORN 『ジナンドモルフ』 (20070417)
もの凄く長ったらしくなって収拾がつかなくなってしまったデノ獄馴れ初め話の一部。








「全部が全部、クリーンなわけじゃない。この世界ではそれはあり得ないし、それじゃ通用しない。出来る事は何でもしたし、何でもしなけりゃいけなかった。汚い事も、勿論殺しも」

そうでなければ、財政は立ち行かなかったし、そうなってしまえば、ファミリー自体が危険だった。やらなけりゃならなかった、何でも。
呻いたディーノは、その夜目にも紙の様に蒼褪めた顔を俯けて、形良く尖った顎から寝汗とも涙ともつかない雫を滴らせた(目元は手で覆われていたので、表情は全く解らない)。
混乱しているのか、内容が全く整理されず、うわ言の様に紡がれた言葉の断片は、過去に彼が如何いった方法で傾いた財政を立て直したのかを、それでも克明に表現する。それは確かにクリーンとは言い難く、時には相手の人間性を破棄するような、在るべき尊厳を踏み躙るような、そういった仕事や謀略の類だった(彼のことだから中には真っ当な稼ぎもあっただろうが、それは語られなかった)。
話が反抗勢力の幹部、その子供を縊り殺した件に至った時、俺はとうとう根を上げた。

「…もう、いい、ディーノ」

しかし、彼は続ける。

「俺が鞭で絞めたんだ、柔らかかった、パン屑みたいだった」

「ディーノ、もういい!」

言うな、止めろよ。もういい、ディーノ。もう、いい。
見た事も無い程の錯乱じみた様子に、気付けば俺が泣いていて、叫びに驚いたのか、顔を上げたディーノも泣いていた(やはりあれは寝汗でなく、涙だった)。

「もう、いい」

呟いた声は自分でも舌打ちしたくなる程に掠れていて、ベッドの上で蹲った彼にしがみ付く様にして抱きつくのがやっとだった。いつもなら間髪入れずに抱き返してくる腕は、力無くシーツの上に投げ出されている。それが何処か死体を連想させて、恐ろしくなる。
浅く息をしていたディーノが、ぽつりと口にした。

「あの日から、ずっとパンを食べるのを怖いと思ってる」

瞬きをした彼の目尻から、丸い雫がなだらかに頬を滑り落ちて、俺は彼の肩に顔を押し付ける。

Dino×Gokudera from REBORN 『薄弱の捕食』(20070321)
柔らかく脆弱な肉体、精神。全ては喰らわれるために。







カップが割れた。
それはディーノがイタリアから持ち帰ったカップで、その時既に取っ手の付け根部分には、一度取れたのを付け直した様な痕があったので、正確に言うなら、そのカップが割れたのは二度目だ。
もう少しディテールに関して付け加えるなら、そのカップは陶器で出来ていて、古めかしい(つまり少し埃っぽいような感じの)薄い紫色をしている。取っ手が一度取れたにも関わらず、修繕して使っているくらいだから、ディーノは余程そのカップを気に入っていて、愛用しているのだろう(実際、彼がイタリアにいる間は俺の家の戸棚に鎮座しているそれは、今日のように彼が日本に訪れた日には必ず並々とコーヒーを湛える)。

Dino×Gokudera from REBORN 『ヴィオレット』(2007313)
SSSの『紫のカップ』の前振り。如何せん長いという理由でカットされた可哀想な文。







貪る、というのとは、また違った表現が必要だと思った。理性を一つ残らず、それこそ、こそげ落とすように無理矢理奪っていくのではなくて、どちらかといえば、緩やかな剥離を促すようなものに近しいからだ。
ディーノとキスをする時、俺はいつもこの感覚を表現する言葉を探している(探し当てたところで、人に語って聞かせる気は毛頭無いけれど、そういう事を考えていないと本当に理性を全部攫われてしまうのだ。勿論、無理矢理にではなく)。
軽く押し付ける具合で覆うばかりだった唇から差し出された舌先に、ゆっくりと口の端を舐められて、俺はほぼ無意識に閉じていた顎の力を緩めた。その僅かばかりの隙間から侵入を果たした舌は、口の粘膜を順繰りに撫で回していって、最後には狭い口腔で逃げ惑う俺の舌を捕らえて絡め取り、充分に愉しんでから、そっと放す。それから、また唇だけを触れ合わせる。また舌を絡めて、放す。
向きや角度が違うだけの、この無限に思えるループから抜け出そうと躍起になって、俺は時折反撃を試みるが、今のところそれが成功した例は無い。自発的に差し出した舌先は、さしたる驚きも無く、あっさりと彼に受け取られてしまう。
口の端から飲み下せない唾液が零れる感触と、断続的に耳を苛む濡れた音にも未だに慣れない。それが余計に理性の動きを鈍らせる。
硬い指の先に髪を優しく掻きやられて、背筋を愉悦に似たものが這い上がる。
気が付けば、先程までは固く握り締めていた筈の手はディーノの背に縋っていて、追われていた筈の舌は今度は追う側になってしまっている。不可解だ。けれど、その不可解さが愛しいと思う。

Dino×Gokudera from REBORN 『齎される剥離とその理由』(20070310)
バレンタインSSの書き損じ。オチがつかなかったので結局は『解くキスの残滓と歔欷』を採用した思い出。







寄り掛かった校門の付け根を、僅かに踏み躙った。
段々と近づいてくる幾つかの軽い足音、耳に慣れた筈の声は、知らない他人めいた響きでもって、鼓膜を無慈悲に抉る(ハヤトが笑っている)。

年相応の幼く開け放した笑みを浮かべているであろう明るい色の瞳を、俺はきっと、もうこれ以上知ってしまいたくない。陰鬱で好いし、それで構わない。あの何か諦めた目で、疲弊しきった表情で笑えば好いのだ。俺の直ぐ傍、この血路の只中で。

Dino×Gokudera from REBORN 『クドリャフカ』(20070217)
獄寺と自分を同類項のものだと錯覚していて、次々に見つかる当然の差異に憤るディーノの話の切れ端。








手離さなければならないなら、多分、手離すことが出来るだろう。そうして、それを深く後悔して、そのままで一生を終えるだろう。
出会ってから今日迄の五年間、俺にとってのディーノは、そういったカテゴリに含まれる男だった。それで、ディーノにとっての俺もそういった存在なのだろうと思う(彼はよく甘い言葉を口にしたけれど、「離さない」とは絶対に言わなかった)。良かれ悪しかれ、対等な関係だ。
それに思い至った時、俺は幾らかの安堵を覚えた。
首筋を熱心に舌でなぞる男の、その豪奢な金髪を手繰り寄せる。

Dino×Gokudera from REBORN 『ブービートラップ5:5』(20070214)
この文で一体如何やってブービートラップに繋げる気だったのかは不明。






















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