流石に毎晩電話をするという訳にはいかなかったけれど、それでも最低週に一度は声を聴きたいし、聴かせてもやりたかったので、それなりの頻度で電話をする。ハヤトの方からかけてくる事は滅多にない。彼は自分の内側の感情に対して年相応の反応をするのが苦手なようだったし、それ以上に、俺(正確には"俺の立場")に対する意識が酷いせいもあるのだろう。
駄目で元々のつもりでかけたにも関わらず、一回目のコール音が鳴り止まないうちに聞こえた応答に、思わず口許を緩めた。

「悪い、起こしたか?」

問いかけには、「まだ起きてた、」と返ってくる。小さな嘘だ。電話に出た時から声は掠れているし、起き上がったのか、微かに衣擦れの音もしていた。それに、そもそも今の時刻では日本は真夜中だ。寝ていなかったとしても、寝かけてはいたのには間違いない。けれども、それを指摘するのは適切ではない(俺達の場合は特に)。
おくびにも出さずに、なら良いけど、と言うと、居心地の悪そうな間の後に、それで、とハヤトは呟いた。何の用だよ。声は大分はっきりとしてきている。
ハヤトの声を聴きたいと思って。俺の。そう、ハヤトの。

「、ても、俺は何もねーからアンタが話せよ」

幾つかを交わした後、彼はそう言った。そして、基本的に俺は彼には甘いという自覚があり、電話に出てくれた時点で目的の殆どは果してしまったようなものだ。
じゃあ、一昨昨日に行ってきた国の話を。断るでもなく受けた俺の耳へ、小さな、短い相槌が届く。どうせドジ踏んだんだろ、あるだけ聞いてやるよ。そう薄く笑った声も。
それから後は柔らかな気配だけが、夜の隙間へそっと漂っている。

テンダー・ノイズ


2008.2.23   上 au.舞流紆 (Theme ... 「夜想曲」)
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