慣れるには至るまい。
そう思いつ、桜に霞む朧月が揺れる盃の表面を眺めていると、「アンタ、さっきから動かねえが、」と声がした。顔を左へ向けると、海原の眼が、揶揄するが如く瞬きをする。
「まさかもう酔っちまったんじゃあねえだろうな」
長曾我部は瓶子を軽く振ってみせた。たぷ、と僅かに耳を打つ。
苛立ちと、それとはまた別のものが、何ぞ染み出てくる。
「この程度では酔わぬ、生憎と下戸ではない」
言うと、そうかい、と薄い笑いを含んだ返答があり、まだ盃の底は乾かぬというのに、男は酒を注ぎ足してきた。手を引けば膝が濡れる。動けずに居る内に盃の縁まで膨れ上がってしまった酒へ、仕方無しに口をつけると、そうそう、と笑う。実に勝手だ(急にやってきては、やれ花見だ月見だと言っては上がりこんでくる事からして既に)。


「好いお月さんだ」
思惑など知らぬ男は言う。からからと笑う。
酒気が幾らか失せた酒は、しかし、喉をじりじりと焼いてゆく。
知らず舞い来た桜花の一片落つ盃を、己はまだ干せずにいる。舐める。

(この苦味には、ああ、ゆめゆめ慣れまいぞ、)

月の下、花の底

2008.3.1   上 au.舞流紆 (Theme ... 「櫻酒」)
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