そっと手を取って微笑む、という単純な行為に、彼の翠色の瞳は酷く動揺する。嫌悪に似た感情を隠す余裕も無いらしく、可哀想なほど身体を引き攣らせるのを、静かに抱き寄せて鎮めるのはいつもの事だ。その強張った身体が解けるのを根気強く待つのも。
知りあったばかりの頃は、そういう反応をする彼を見て、自分が何かしでかしたかと思ったものだけれど、今ではよくよく理由を解っているので、慌てることはない。彼は自分に向けられる愛情というものに、押し並べて慣れていないだけなのだった。
額同士をつける様にして顔を覗き込むと、困惑しきった翠色とかち合う。さらに笑いかければ、その色はますます深まった。

「…、近ぇよ」

ハヤトが言うので、「キスが出来るくらいには、」と、笑って返す。怯えさせないうちに、と抱きなおすと、俺がそれを実行しない事に安堵したのか、肩口で微かな溜め息が漏れた。そして、彼の灰色の髪が僅かに、それも相当遠慮がちに首筋へ寄せられたので、その時点で漸く、俺も其処へ鼻先を埋める。相手の出方を常に伺いながら触れるのは、駆け引きに似ている、と思う。

「近ぇよ、」

小さな声が、話しかけるというよりは独白に似た様子で呟き、背に回りきらずに俺の脇腹の辺りで留まっている彼の指先が、Tシャツをきつく掴んだ。
また少し、灰色の髪が近くなる。
薄い布越しに触れる、その手の小さな爪に、一切を報われたような気分になって、俺は彼の髪に頬を押し付けてそっと笑う。
緩やかに、けれど、確かに狭まっていく距離が、それを赦されている事が、堪らなく嬉しかった。

爪に甘い色

2007.6.10   上
2007.7.12   加筆修正 Theme from 約30の嘘 *An anonymous request (※「ディーノと獄寺が幸せな話」)
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