マサムネさんはそれはそれは立派な男でした。
一寸病気をして右目が不自由でしたが、それでもきちんと自立を果たしましたし、見目にも恵まれていて、なにより彼は強かったのです。
おかげで街を歩けば掃いて捨てるほど女が寄って来ましたが、基本的にそういった事に頓着しないマサムネさんは遊びで付き合っては捨てる事を繰り返していました。

けれど、それも昔の話です。
今の彼は真剣に恋をしていました。
お相手の名前はユキムラさんといいますが、シャイだけれども積極的なマサムネさんに対して、ユキムラさんは大層オクテで、そのうえマサムネさんにとって可哀想な事には彼はとんでもない鈍チンでしたから、いまだにマサムネさんの片想いでした。



マサムネさんがいつものようにユキムラさんの通っている高校の門のところへ座り込んでいると、色んな生徒が振り返ってマサムネさんを見ます。
マサムネさんはそれくらい素敵なのです。
けれども、あんまり他の人に興味が無いマサムネさんは生徒達の熱い視線を悉く無視してしまって、近づいてこようとする女の子からも、ふい、と目を背けてしまうのでした。
なにしろ、マサムネさんが待っているのはたった一人だけでしたので。

暫くして、漸くユキムラさんがやって来ました。
部活があったのでしょう、竹刀を背負っています。


「今日も待っていて下さったか!」

「まぁ、な」


マサムネさんは自分に合わせてしゃがんでくれるユキムラさんに嬉しくなりましたが、あくまでクールでいたい心理がありましたので、なんでもないふりで歩き始めます。
ユキムラさんはにっこり笑ってそれに続いて、マサムネさんに学校であった事を沢山話しました。
数学教師が今日も太陽に向かってぶつぶつと祈っていた事や、体育教師(ユキムラさんは彼の事を「お館様」と呼んで慕っています)がいかに素晴らしいかという事、昼の弁当に好物が入っていた事。
話し続けるユキムラさんに、マサムネさんはたまに相槌をうちます。
すると、ユキムラさんがますますにっこりするので、マサムネさんもとても嬉しくなるのでした。

けれど、楽しい時間は瞬きほどのもので、いつもあっという間にユキムラさんの家についてしまいます。
普通の女が相手なら余裕で送り狼に転じるマサムネさんですが、如何せん本気になったのは初めての事でしたので、ユキムラさんの家に上がった事は片手で足りる回数しかありません。
それも、ユキムラさんに誘ってもらっての事ですから、お色気要素もゼロでした。
しかも、肝心のユキムラさんはというと、やはり大層な鈍チンでしたから、大抵はマサムネさんに笑って手を振って、「また明日に」と言います。
でも、マサムネさんはそれだけでも幸せになれるのでした。
何処かの誰かもよく言っていますが、恋って本当に素晴らしいものです。

今日も夕日に向かって去っていくマサムネさんを、ユキムラさんは見送っています。
今日もユキムラさんを迎えに玄関先まで出てきた家政夫のサスケさんは、ぼそりと呟きました。


「ほんとに旦那の事が好きだねぇ、あの目つきの悪い猫」


真っ赤な夕日を背景に、マサムネさんの流れるような白い尾が、機嫌良さげに揺れました。


マサムネさんとユキムラさん

2007.9.5   上 au.舞流紆
ちなみに言っておきますと、マサムネさんは右目に黒斑がある白猫で、メゴさんは三毛猫です。
コジューローさんは茶色の日本犬で、シゲザネさんは短めの尻尾が途中で折れてる黒猫です。
マサムネさんの周囲の皆は、マサムネさんとユキムラさんを一歩進んだ関係にするべく、影に日向に手をまわしています。























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