不本意ながらも共闘した戦の後には、僅かな余命も尽き果てんとする臣下達に寄り添うようにして地べたへ座り、静かに声をかけ続ける男の背をよく目にした。

お前等のおかげで、勝てたぜ。本当によくやってくれた。有難うな。故郷の家族の心配は何にもいらねぇよ。生活は俺が保障する。絶対だ。餓えたりやなんかはさせやしねぇ。お前等の事も、海の底へちゃんと帰してやるからよ。なぁ、それで勘弁してくれよなぁ。俺にはそれぐらいしかしてやれねぇが、でもよ、本当に感謝してる。俺について来てくれて有難うな。有難う、有難う、俺ぁ幸せ者だ、有難う、

繰り返し吐かれる言葉に、彼等は安堵した様に、満足した様に微笑んでいた。
男は、そのような様子を見ては涙を流し、それを隠そうともしなかった。
それらの全てが、己には酷く莫迦莫迦しいものの様に思えていた。



「家の事は心配するな、きちんと見届けてやるからよ。だから、な、安心しろよ」
共闘の後、隻眼の男は今日も声をかける。涙に溺れる。
愚かな事だ、と意識の淵に思う。
愚かな事だ。人一人が潰えたところで、何をそれ程に哀しむ必要が在るというのだろう。所詮は皆、駒なのだ。定められた軌道を描き、盤上を動くのみに過ぎぬ駒だ。何をそれ程に哀しむ必要が在るというのだ、何を、それ程までに。
碇槍を振り回す事しか知らぬ手が、死にかけた肢体へ無遠慮に触れる。
男の蒼海の眼から、塩気を帯びた雫が零れる。

「なぁ、アンタでもそういう顔するんだなぁ、毛利」

碧玉でも転がす様に、固く温い掌がそっと頬を擦った。其処へ、温い雫が零れかかる。
莫迦莫迦しい。駒一つの損害を哀しむなどと。大した親交すら持たず、むしろ己を邪険に扱う事しかしなかった者のために涙を流すなどと。その家の後見を軽々しく口にするなどというのは。なんと愚かな、長曾我部、莫迦莫迦しい、愚かな。
ずくずくと、単筒の鉛玉に食い破られた身が疼く。
「皆、俺に任せろよ、」
時々は綺麗な花だって、なぁ、毛利。毛利。
男はそう繰り返しながら相変わらず無遠慮に触れ続けて、血を滲ませた己が唇は、ただ、僅かばかりの笑みを刷くばかりであった(莫迦莫迦しいと知って、如何して、あぁ、これほどに満たされているのだろう、か、)

行く鳥の、

2007.6.25   上 au.舞流紆
実はこれを毛利元就没記念文用に用意してたのですけど、憐憫四部作の構想が出たので拍手文に流してしまいました






















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