薄紅の花弁が咲き零れる梢は匂やかな春を装い、天上の日輪はただその光を遍く注いでいる。眼の奥へ染み入るような深い翠色に覆われた山々はその子たる木々を艶やかに躍らせ、そして凪がせる。何処かで高く、か細く、烏が啼く。
花を愛でる趣味はそう無いが、美しいと感じぬ訳ではなかったので、溜め息は勝手に漏れ出た。春が深い。
伸びやかに張り出した桜花の一枝を戯れに手折ろうとして、過去に齎された言葉を思う。
木を相手に「折ったら可哀想じゃねぇか」と顔を歪めたあの男も何処ぞで花を愛でているだろうか、と唐突に考え、そのような戯言が脳裏を走る余地を与えた己を昏く哂う。
何を莫迦な事を(その男は先だって己が切り捨てたではないか)。

振り仰いだ日輪は、遍く光を投げかける。常の闇にすら射す、その慈悲。
手折らぬ桜花は揺れ、木々はささめごとを散らす。何処かで高く、か細く、烏が啼く。
あぁ、春が深い(何時ぞやかに触れた其れよりも尚、)

春と啼き、過ぎがてに

2007.4.6   上 au.舞流紆
命萌ゆる春のもの哀しさ






















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