真田幸村は、盃を乾す、というよりは、盃を舐める、といったような飲み方をする男だった。
酒を一気に飲むと頭がぐるぐるするのだと笑った表情は、本当に元服前の子供の様な顔だったので、「何、ガキみてぇな事言ってんだ」と笑い飛ばした事をよく記憶している(因みに、その時何故か奴は「面目無い」と俺に頭を下げたが、今にして思えば、あれは既に酔っていたのだろう)。
実際、幸村は酒を飲んだら二刻もしないうちに畳に崩れ落ちたので、俺は下女に、酒の肴よりも先に布団を用意しておけ、と言わなくてはならなかった。酔い潰れた彼を褥に放り込むのも俺の役目で、その微かな息遣いを聞きながら、盃を傾ける時間が好きだった。
そうして、俺は今、その緩やかな時間を、じわり、と味わっている。
年の暮れに奥州を訪れた幸村は、先程まで盃の表面を舐めていたが、急にコトリ、と動かなくなったので、いつも通りに敷布の中に押し込めてやったのだ。
「色気もクソもねぇな、」
苦笑して、盃を乾す。
綿の入った布団に埋もれるようにして眠る男の顔は安らかで、手を出すのはいつも憚られた。
瓶子から酒を注ぐ。薄蒼いギヤマンの盃に、とろりとした濁り酒が渦を巻いて揺蕩う。
春は花、夏は蛍火、秋は月、冬には雪を眺めながら、今年も彼と盃を交わせれば良い、と、薄く張った夜気の内に思う。

宴の夜

2007.5.2   上 (※暗薄雑多
100 No.78) au.舞流紆
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