束の間にも満たぬ、玉の緒ばかりの事だ。
真田幸村と共に在る折には、そのような事を覚えている。

(鍔鳴りや鯨波、凡そ戦場に浮く華々へ身をうち潰る時、或いは、うららなる日の逍遥、閨におく所作も総て泡沫に似た。何故かは大方の見当がついており、恐らくは真の事であるだろう)
(あはれにも、うちわらう)

月華に見る男の寝顔はあまりにも幼く、稚い。修羅は其処へはおらず、安らかな気色が漂うのみであった。
吹き渡る夜風に、萩の揺れる。
やや乱れた衿のあわい、その下へ残る夥しい古傷の類に、僅か、息を吐く。
今この時にその喉元へ喰らいついたところで、そのように残りはすまい、と考えての気鬱であった(一時は痕にもなろう。なれども、それも何時かは埋もれてしまうだろう。そうして、それを許さぬほどに連ねる事が出来るまでには、俺はこの枯茶の髪だにも手繰れはしないのだ、)。
常ならば触れるに難い糸を摘み上げると、それは皓々たる夜気において密やかに影を透かす。閉じぬ明障子より風の吹き来て、萩が揺れ、糸もまた揺れる。夜露の散る。
目覚めぬ男は明日の朝には発ち、己はせいぜい国主らしく見送るに留まるが定石、実に煩わしい事柄であったが、それを宿世と知ってもいた。さりとて儘ならぬのもだ。
長息でさえ、風に消ゆ。

(まこと、束の間にも満たぬ、玉の緒ばかりの事の連なる宵だ、)

玉の緒の、

2008.4.16   上 au.舞流紆
「花ヲ。」の撫子さんへ。沢山の感謝を込めて。
※お持ち帰り等を始めとする個人の範囲内での複製は撫子さんにのみ許可しております




















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