其の二槍へ紅蓮を宿せども、其れは弔いの焔などではないのだろう。
或いは送るやもしれぬ、だが、決して迎えはしないだろう。

戦場におく煮え滾る血潮の下での冴えた思案を思い返し、独り笑うと、晩酌の膳を挟んだ向かいに座していた幸村が怪訝そうな顔をする。気にするなという風に手をうち振ってみせると、彼は何か言いかけようと口を開いた後、しかし、何を口にするわけでもなく貌を俯けた。
手を付けられずに在る盃の、其の内に蕩揺う酒精は清く澄み、開け放たれた襖より降り頻る皓々たる月華に僅かな波紋を浮かび上がらせている。昼間の茹だるような暑さは形を潜めて、肌寒さすら覚える空気が二つ身の狭間を満たしていた。
そのような宵の最中において、幸村はまだ逡巡をしているようだ。もとより静を欠き、隠し立ての類を不得手とする男である。
大方、俺の笑声の意味を気にしているのだ。そう思ったところで、ふいに彼の声が鼓膜を打った。
「政宗殿は、」
某には、政宗殿が何を考えておいでか時折解せませぬ。
言うて下さらねば、と、幸村は囁くように呟いた。
その語尾の掠れに似合わず、茶の眼はひたと俺を見据えている。戦場で対峙した時のようだ。彼が其の二槍へ紅蓮を灯す時に似て、しかし、其れとするにはあの独特の、皮膚を灼くような感覚が無かった。只管に真摯、只管に直向であった。
先程の思案のそれに加えて、彼はそもそもが迎える性質ではないのだと、俺は何処か、意識の奥深くで考えている。口がきけず、また、触れる事も能はぬなら、もう彼へは何も伝える事はかなわないのだと、この瞬間に覚えている。
「解らねぇなら、解らねぇなりに頭使って考えろよ」
口にすると、幸村は素直に眉を寄せ、俺は、やはり彼に斬られるわけにはいかないと思い、静かにうち笑った。

千々と散り、
散り果つは紅に由りて先の、


2007.9.11   上 (※"「送火・迎火」をテーマにダテサナ") au.舞流紆
「Beast Tamer」の犬斗さんへ。沢山の感謝を込めて。
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