先祖の御魂を導く焔はたまさかに爆ぜながら、その柔らかな揺らめきを宵闇に広げている。
縁側で隣に座してそれを眺めていた男が出抜けに、火にはそういったものを引き寄せる力があるのだと口にしたので、「視えるとでも」と問えば、「嫌でもな」と返ってきた。
無骨な指は眼帯を僅かに摩って、その下の左眼には見鬼の才が有ると聞き及んでいた事を今更ながらに思い出す。
何気なく青鈍色の眼を見ると、長曾我部は何を思ったのか「別に気にしちゃあいねぇよ」と笑った。
「今は盆だ、胸糞悪くなるようなのは幾らも視えねぇ。視えても先祖か家臣の奴らぐれぇのもんだ」

だがよ、どんなに懐かしくても、此方が気がついた事を向こうに感付かれちゃあならねぇ。語りかけられても、口をきいちゃあいけねぇ。地べたの近くをうろついてるような奴はまだ未練が濃いから、感付かれれば引っ張られちまう、彼岸の、その向こうに。

起伏も無く茫洋と語る男は常とは様子を異にしている。焔が照らす貌にはもう笑みなど無い。眼は朱の揺らめきに留められ、ゆうるりと瞬きを繰り返している。先程の話に上った先祖や家臣が視えているのだろうか。そうして、視えぬ振りを(それはこの男には些か酷な事であるように思えた。なにしろ長曾我部元親という人間は手を伸ばす性分であったからだ)。
「面倒な、」
思ったままを口に出せば、長曾我部は「そうだな」と浅く息を吐いた。
「アンタはそう思うだろうな、」
そう言ったきり、苦々しい、しかし、笑みにも諦めにも似た奇妙な表情で押し黙った。

白金の髪ざしの下では、また厄介な感傷を咀嚼しているのだろう。それをただただ眺めているのにも辟易し、らしくもなく己が死した後の事を脳裏へ廻らせたものの、虚ろな顔色をして立ち尽くす己を男が意図を以てその碧眼へ映さぬ日へと呆気なく至り、呪わしくも浅い吐息を漏らす。
盗み見た青鈍色の眼は、今だ凝り固まった焔を其処へ映し込んでいる。

ならばいっそ道連れにしてやりたいものを、あぁ、(それさえ赦さぬのもまた己に違いないのだ、)

千々と散り、
散り果つは紅に至りて後の、


2007.8.19   上 Request from 犬斗様 (※Thank you for 56000hits!) au.舞流紆
「"送火・迎火"をテーマにチカナリ」とのリクエストでした。犬斗様に捧げさせて頂きます。
※お持ち帰りはリクエストされた方にのみ許可しております。ご了承の程。






















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