紅を纏った痩躯に両の腕を伸ばすと、僅かに息を飲む気配がした。訝しく思い、見やると、幸村の惑う様な視線とかち合う。前を見詰める事しか知らない茶の瞳は、其処に俺をそっくり映し込んで、そうして、怯えた様に振れる。
返して思えば、この男は色恋沙汰には酷く疎くて、付加えるなら、褥を共にする事はあっても只の温い抱擁などはあまりした事が無いのだった(大事でなかった訳でなく、恐らくは焦っていた)。
らしく無いと承知しながら、決して女の様には薄くない背へ、掌を成る丈静かに這わせる。怯む様に、竦む様に、抱き寄せた肩が跳ねる。つくづく不慣れだ。
「政宗、殿」
漸く口に上らせて、幸村が浅く身動ぎをするので、長い後ろ髪を梳くようにして触れる。
改めて抱いてみると、戦場での荒々しい気さえ孕んだ其れとも、閨でのしなやかに反応を返す其れとも、何か、何処か違う身体をしていた。とろ火に似ている。滲むように染みる熱は、只只皮膚の下へ潜り込んで来る。もうじき骨身にまで届くだろうか、と思わせるほどの温みは、ついぞ味わった事の無いものだった。
そろりと何かが動く気配に気が付けば、所在無さげに下ろされていた幸村の腕が、背へまわされつつある。きっと、焼き鏝の様なのだろう。
ややあってから背を掠めた熱に、予想は違わなかった事を悟る。

そうして、ようよう抱き合う形になる頃には身体は酷く温もっていて、幸村が離れた後になっても、まだ暫くは燻っていた。

燃える骨 と 火の後遺症

2007.2.19   上
2007.2.28   加筆修正 Theme from 模倣坂心中
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