その親指の先ほどの、小さく白い干菓子は舌の上に乗せた途端に、ほろり、と崩れて、口の中に残る湿った砂の様な食感の其れを、上顎に押し付ける様にして味わう。奥州、かの独眼竜政宗の屋敷で出される菓子はどれも粋で、梅花を模ったそれも全く例外ではなかった。
「大変美味に御座った」
座したままで頭を下げると、屋敷の主が薄く笑った気配がして、それから、もう一つの気配も同様にした。
「それは好う御座いました」
軽やかな声に顔を上げると、二畳隔てた先で女人が笑んでいる。華やいだ顔立ちは、しっとりと濃い浅葱色の着物に浮き立って見え、艶めいた長い黒髪は緩く括られ、体の脇へ垂らされていた。愛姫と呼ばれる彼女は独眼竜の正室だったが、たおやかにして酷く稚い様子に見える。白く、そうして華奢である事がそれに一層の拍車をかけているようだった。
隻眼が彼女を見る。
「愛、」
短い呼びかけに、「はい」と小さく微笑して、人形の様な細身は眼前を滑り去って行った。
視線を感じて振り返ると、鷹の瞳は幾らかの嘲笑を滲ませて、じっと此方を見ている。俺の目も彼を映している。俺と彼との合間、二畳の隙間に蕩揺うのは、薄い白粉と香の匂いだ。す、と甘く鼻腔を撫でる梅の香。
押し黙った俺に、彼は「アンタと同じくらいbeautifulだろ」と何の臆面もなく言うので、「某などは、とても」と、咄嗟に唇に登らせる(意味はよく解らなかったが、褒め言葉だろうと思ったからだ)。再び沈黙が降りきる前に、高杯を抱えた女の影が視界に入る。
「好きなだけ食っていけよ」と彼が笑い、「どうぞ」と白い手が高杯に盛られた菓子を勧めた。断れよう筈も無く、指を懐紙に滑らせる。少し余計に力を加えるだけでも崩れ落ちてしまいそうな菓子を、そうっと摘み上げる。それを眺める、男の眼。
あの鳶色の髪の下では、一体どのような思考が成されているのだろう。正室を横に侍らせながら、一時の戯れとして抱いている男を見る、その心境。犬畜生を嬲るに似た感覚だろうか。だとすれば、その犬に成り下がっている己の舌が、丁寧に口へ押し込んだ菓子の甘み、感触を知り得ぬとしても、仕方の無い事だ。きっと。

花と土塊

2007.3.2   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載) au.舞流紆
殿が酷すぎ。























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