「先日もお断り申し上げた筈、」
お忘れになったか、と言うと、独眼竜の二つ名を持つ男は口角を吊り上げ、カカと笑うのだった。
「つれねぇな、幸村」
言葉とは裏腹に、唇も瞳も笑んでいる。俺の答えを見越して、それを楽しんでいる。しかし、当然笑みに歪められて然るべき彼の貌は、全くそうではなかった。
「アンタは一度だって俺のもんになりゃしねぇ」
口にして、盃を乾す。近くに居ながら、何処か遠くへ断絶されている男を、俺はこのところ幾度も味わっている苦い感情とともに見やる。
どれ程に請われても、俺は彼の物にはならない。そうである事を知りながら、彼の唇はそのような繰言を紡ぐ。そうして、俺はやはり彼の物にはならず、彼もまた然りだ。こればかりは誰の所為でも無いのだった(この身に流れる血の紅が、そうさせるのだ)。
ふいに肩を押されたかと思うと、畳へ転がされる。覆い被さる様にして眼前を埋め尽くす体躯からの、余熱に似た微かな温度を肌に感じる。
「これだけ近いんだぜ」
諭す様な風情で言う男は、何処か遠くへ居る人物に語りかけるようで、そうして、俺からは断絶されているのだ。そのくせ、身体を弄る掌は酷く熱くて、俺は戸惑い、彼は今度は静かに、

うち笑ふ

2007.3.8   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載) au.舞流紆























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