病床の彼は、蝋の様に白い貌をしていた。
かつて戦場で切り結んだ時の、あの飢えた様な、ぎらついた隻眼は今は形を潜めていて、凪いだ湖面を思わせる静寂さで其処に在った。
「まさか、畳の上で死ぬとはな」
碌な死に方じゃねぇな。
独りごちる様に口にして笑うので、俺は言葉に詰まる。詰まって、詰まったままで、それでも聞かなかった事には出来ず、堪らなくなって俯いた。
閉じた瞳の瞼を、彼の骨の浮き出た指先が緩く撫でる。刀を久しく握らぬ手や腕は随分と衰えているようで、きっと目に見えて細いだろう(故に、触れられた時、瞳を閉じていて良かった、と少なからず思った)。
暫く目頭や睫毛をなぞっていた指先は、す、と離れ、今度は指の背が頬を滑る。
愛しむに似たその所作は、いつかの冴えた朝の気配の内で幾度齎されたろう。仄かな温みは。
これ程に温かな指先が、如何して明日には冷たく凝るかもしれぬ、などと思えるだろうか。
「幸村、」
名を呼ぶ声に、しかし、俺は目を開けなかった。
頬にはまだ彼の薄い熱が触れていて、俺はそれを見たくなかった。

其はあまりに幽く、微か

2007.3.1   上(※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載、暗薄雑多100 No.33) au.舞流紆
いきなり病気からスタート。























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