海辺へ佇む痩躯は竹のようだ、とふと思う(ならば、寄せて返す波に繰り返し洗われる足は竹の葉の舟だろうか)。黙して立ち尽くすその姿は怖気が走る程孤独で、群生する竹に喩えるのはいささか可笑しいのかもしれないが、俺にはそう思えた。
磯の香の中、潮騒の音に浸かりながら、元就の横へ並ぶ。遠く海原の奥を見据える瞳は俺を映す事は無く、彼はまだ孤独だ。波に攫われてしまう前に、と、その名を口に上らせる。
「元就」
応えは無い。竹は身動ぎもしない。
もう一度口を開く。
「元就」
応えは無い。緩慢に閉じ、そうして開けられる瞼。止まぬ潮騒。
堪らなくなって、彼の眼前に立ち塞がり、顔を覗き込む。
その面の、紙の様な異様な白さ。
もうよい、と、元就は漸く口にした。
「我に構うな」
茶の瞳は閉ざされ、頼りなく細い髪が潮風に緩く舞う。老竹色をした衣は陽光に淡く透け、何か、天人の纏うそれに似ている、と浅く考える。整った貌に表情は無い。
こういう時、眼前の身体を掻き抱いて、俺にはお前が必要なのだと、只傍近くに居て欲しいのだと、声高に叫びたくなる(潮騒は止まず、俺の手は彼の病人の様に透けた肌には触れなかった)。

独り蒼海に汎べり

2007.3.24   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載)
2007.8.16   au.舞流紆























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