弥終に待つのは冷ややかな激情に彩られた戦場の荒波か、毒を滲ませた供花だと思っていた。それで構わなかった。そうして死ぬべきだと思っていた。そうでなければ数多の犠牲への贖いにはならぬのだと思っていて、今もそうだ。
「無様な事よな、」
漸く吐き出した言葉を、男の白い耳は捉えたのだろう。褥の直ぐ脇へ座した彼の青鈍色の眼が僅かに顰められた。
伸べられた大きな手は、ただ静かに眦の辺りを撫で擦る。髪を梳く指先の硬い感触はよくよく知ったもので、酷く温かった。かつての様に振り払う気には、もう、ならない。
じわりじわりと何かが流れ落ちていく感覚は覚悟していた刹那の苦痛よりも確実に理性を削り、けれど、凪いでいる。詭計に満たされた日々の中で、これほどに静かな日常が在り得たろうか。病魔に蝕まれた身体は自由にならず、起き上がる事はおろか満足に声を出す事すら叶わないが、これが報いで、科せられた贖いなのだとしたら、随分と軽い罰も在ったものだ。
疲労に瞳を閉じると、もう一度、眦を指が辿った。
「無様なもんかよ」
男は呟く。彼の嗄れ声を聞く事も、もう多くは無いだろう。謀略の忘却に失せる事も。温みは確かにこの身体へ染みて、最期まで共に行く事が出来るだろう。
なんとか瞼を押し上げると、何か思案しているらしい男の横顔と、その銀の髪の合間から遅咲きの桜が覗く。寝込んでいるうちに、もう春も深くなっているらしい。
吹き込む風に花弁は淡く舞い、光る。弥終に咲く花の、匂やかな色を聞く。

弥終に咲きををりしは

2007.3.16   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載) au.舞流紆
※弥終(いやはて)…「物事の終わり」の意。























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