稀有な眼の在り様だった。右の眼は青鈍色をしていて、左の眼は草の色をしていた。 何時だったか、男が、どうせなら両方が青けりゃ好かったんだがな、とぼやいたので、理由を尋ねたところ、だって海の色の方が好いじゃねぇか、と笑ったのを覚えている(どうでも良い事まで記憶している己に時折閉口する)。 目の前で静かに瞬きを繰り返す海原と草原の色に、僅か、息を吐く。それを攫う様に口付けた男は、少しばかりの笑みを漏らした。 「近頃な、」 近頃、こっちも悪かねぇかな、と思うのよ。 左、草原の眼の脇を指先でつつく。潮風に晒されているわりには荒れていない爪の先で、玉の様な眼が行灯の仄暗い光を反射する。それは、西海の鬼と呼び称されるにはいささか穏やかに過ぎるように思えた。 手を伸ばし、左目の縁、眦の辺りをなぞると、その指を絡めとられる。無骨な指は温く、固く、やはり鬼にしては穏やかに過ぎるようだ。緩く腕に抱かれ、首筋に白の髪ざしが擦り付けられる。 男が、悪くない、と口にした翡翠の眼が、前より幾らか疎ましくなっている(疎ましくなるだけで決して忌み嫌う事の出来ぬ己に時折閉口する)。 存へ果つる余波 2007.3.20 上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載) au.舞流紆 色違い(オクラ色)眼の元就編。綺麗なものは嫌い。 |
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