結局のところ、この手に残るものは何一つとして無いのだと知っていた。己は常に取り残される側に居て、彼岸の方へ渡り行く者達を見送るばかりだった。今度もそうだ。何を今更。
眼下では、派手な衣を纏った白い男が蘇芳の色に浸されていて、その身体の幾筋もの傷痕は、彼の凄惨な最期を無言の内に語っていた。命尽き果てるまで揮われたであろう得物は真二つに折れて地に突き刺さり、風が吹く都度、鎖をからからと鳴らす。
足を一歩踏み出すと、戦鎧に、凝固しかけた血とも削ぎ落とされた肉片とも判別のつかぬものが跳ねた。
死して尚も迷惑な男よ、と溜め息を吐く。傍らへ跪き、閉じられた白い瞼を押し上げて、とうに濁りきった青鈍を其処に見止める。そうして、傍らへ立ち上がり、無言の内に背を向ける。
感傷は無い。ただ、背後の暗闇から手招く父や兄の声に、男の愛しくも耳障りな嗄れ声が加わっただけだ(哀しんだりなどしない、それこそ、)。

闇撫でる聲

2007.3.12   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載)
2007.5.1    加筆修正 au.舞流紆























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