疎ましくて仕方が無いものなら山ほどあった。弱い身体、女々しい性格、髪や肌の異国じみた白さ。鬼子と指差された両の眼。
眼帯を取ったままでは久しく覗く事の無かった鏡の表面に、見慣れた青色と、虚ろな色を滲ませた翡翠の色が一つずつ、ぽつりと在った。いっそ全く違う色で在ったら好かったのに、と、かつての自分はそう思っていて、今もそのままだ。青なら青で両の眼がそうなら好かったのに、如何して片方だけが青に成り切れずに草野原の色をしているのだろうか、とも(陸の色よりは、わだつみの色の方が好いように思えた)。
故に、その男を飾り立てている戦鎧の色も、初めの頃は疎ましかったのだ。
鏡を放り出し、元就、と口にのぼらせる。返事は無い。鬱陶しそうな衣擦れの音だけが答えた。
初めて左の目を彼の前に晒した時もそうだった。元就は心底面倒くさいといった様子を隠そうともせず、だから何なのだ、と唸った。興味が無さそうな声色で、恐らく、本当に興味が無かったのだろう。眉間には僅かに皺が寄り、薄浅葱の単の袖の下では骨ばった白い指が神経質そうに曲げ伸ばしを繰り返していた。手入れがあまり為されていないらしい爪が少し罅割れていたのを、朧気に覚えている。
此奴の事だからあの爪はそのままに置かれているだろうな、とそぞろに思い、振り返ると、熱心に書き物をしているらしい白い手が目に付いた(爪までは見えない)。その背の後ろに無造作に転がされている鏡は、俺の眼でなく、幾らか煤けた天井の梁を映している。
衣擦れの音がして、美しい青柳色の織の袖が畳を擦る。元就が身体を此方に向けている。
「長曾我部、」
気が済んだならば疾く去ね。邪魔だ。
薄い唇から手酷い言葉を投げつけて、文机に向き直る。青柳の襟元、髪の合間に見え隠れする項は不自然に白く、しゃんと伸ばされた背には、先刻の言葉ほどの拒絶は無い。
もう一度鏡を引き寄せて、顔の左半分だけを映した。草色の眼が見返している。前ほどはその色を疎ましく思ってはいない事に、薄らかに気付く。

仮葬せらるる薄らかなる翠

2007.3.3   上 (※BASARA祭春の陣 花卉ノ宴 掲載) au.舞流紆
眼帯下が色違い眼だったら。セオリーな色(赤とか黄色)もそのうち。























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