未だ残月の在る薄闇の中で、男は褥の中へ体を起こし、何をするでもなく宙を見ているようだった。その横顔は閨でも外される事の少ない鞣し皮の眼帯で覆われていて、表情を見る事は叶わない。しかし、敢えて見ようとも思わないので、覚醒を悟られぬように、共有する掛物へ静かに埋もれる。如何にして気取られずに切り抜けるか、その事に酷く神経質になる己を胸中で笑った(謀などは息をする程に易い事だというのに、何故にこのような事を怖れねばならないのか)。
何事かを思考しているのか、白銀はじっとしたまま動かずに居る。

(男はよく自らを「単純だ」、と笑った。そして、我を「複雑に過ぎる」、と。だが、それはむしろ逆の事だ。唯一つ守るべき物さえ在れば良い己に比べて、彼はなんと大仰で醜くてやかましい感傷を抱えているのだろう。何に囚われる事無く自由で在りたいと願う、そのくせ、その懐へ抱いた物に打ちのめされるばかりの愚かで憐れな鬼、)

背を向けるように寝返りを打ち、浅く息を吐き出した途端、眼界に、ぬ、と手が突き出た。かと思うと、背後から遠慮がちに抱き寄せられる。首筋へ白糸の感触と、薄い熱。男は肩口に額を押し付けたままで、身動ぎの一つもしない。
「元就、」
元就、なぁ、元就。
矢庭に呟かれた名は酷く哀切な訴えの様で、しかし、何を示唆するかは伺わせない。名だけ呼ばわれても、其処に何が在るかなど解りよう筈も無い。だが、そうされる事で、分かち合うにはかけ離れて、触れずに居るには御し難い程のものだ、と、今迄に幾度覚えたか。
今宵もまた、その温い手を払う事は出来ず、恥も外聞もかなぐり捨てて縋り付いてしまいたいという情動を縊って、只管に息を殺している。

月華の下にて

2007.4.22   上 au.舞流紆
元親といる時、元就は慢性的に困り果てている。























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