雨、というものは、どうやら特別なものであるらしい。
水滴がガラスにあたっては弾ける断続的な音の響く空間は、室内灯を点けていないせいで薄暗かったが、外からの明かりにぼんやりと浮き上がっていた。
その中で、男は窓辺へ佇んでいる。茫洋と、曇り空を見ているようだった。
地上での作戦プランの確認とシュミレート、非常事態における連携の類は既に打ち合わせてあるので、今更口に上らせる必要は無い。する事といえば、身体を休める事くらいで、つまりは、各自が自由に過ごせば良いだけの時間だ。そして、その時間を使って、俺は先日組んだばかりのプログラムの動作確認を、ロックオン・ストラトスは空を眺めている。
ある程度の間隔をおいて開閉される瞼は、淡く曇っていた。


「雨が、」

雨が、好きなのですか。
気が付けば、0と1との間にそのような問いを発している。
彼は身体をやや此方へ向け、けれども、視線は枠組みを通過して空へと留めたままで返事をした。

「好き、てほどじゃあない。ただ、故郷を思い出す」

雨がよく降る場所なんだ。にわか雨ばかりだから、傘はささない。足早になる程度で。
そう言って、革のグローブに覆われた指先で、流れ落ちた雨粒をそっとなぞる。
ターコイズグリーンの瞳が僅かに細められる。灰色をしている(その瞳孔に差すグレイの薄光、溶けるように沈む鮮やかな色だけが、遠く、彼の地を往く)。
0と1が、ディスプレイを埋め尽くしていた。
彼の内側を埋めるものは、0や1ではない。
俺は雨が好きではない。特別なものではない(だから、俺は雨が好きではない)。



2008.5.21   上 au.舞流紆






















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