俺が「ちょっとした楽しみになるだろ」と言うと、ハヤトは呆れ果てたような顔をした後、「まあな、」と漏らした。そうして、しげしげと窓の下を覗く。
住人が買ってきたのだろうか、ハヤトの暮らすアパートの入り口には少し前から鉢植えが置かれていて、見るに、それはどうやら紫陽花のようだった。鮮やかな緑色をした茎が伸び、中程に幾らかの葉をつけ、先端にはころころとした小さな蕾の塊が乗っている。先程から降り出した霧のような雨に、ぼんやりと揺れている。
何色の花(正確には花弁でなくて萼なのだけれども)が咲くか賭けよう、と提案したのは俺で、これといった商品は特に無い。本当に、ただの遊びだ。小さな子供が横断歩道の白い部分の上だけを歩こうとするような。

「青だ、多分」
「根拠は、」
「勘に決まってるだろ。こういうのは直感が物を言うんだぜ、ハヤト」

ほら、早く決めろよ。
促すと、ハヤトは「あー」だか「うー」だかと唸って、がしがしと頭を掻いた。その様子が何か言いたそうな雰囲気を漂わせていたので、問いかけてみれば、「俺も青だと思った、」とばつが悪そうに(或いは、面映そうに)言うものだから、少し笑ってしまった。

「じゃあ、青が咲いたら俺達の勝ちなわけだ」

他の色だったら慰めあおうぜ、と言えば、アンティークグリーンの瞳が瞬く。幼い口許が開く。
負けると思ってんのかよ。いいや、勝つさ。
窓枠に置かれた、シルバーリングに飾られた手を取る。
「そうだろ」と笑いかけると、彼はまた呆れ果てたような顔をして、「まあな、」と答えた。

あじさい

2008.5.7   上 au.舞流紆






















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