「触らないと死ぬ、て程じゃないけど、目の前にあったら触りたいだろ」

ディーノは至極丁寧に言うと、テーブルの上にあった俺の手に触れた。そして、破顔する。
可笑しな情景だ。男が二人、テーブルを挟んで座り、手を重ねて見詰め合っている。その方面の小説の演出にはよくある話でも、現実にこれをするのは恋愛で頭がぐちゃぐちゃになっている男女だけだと思っている俺は、彼のその物言いや直接的に向けられる笑顔には耐えられなかった(触らないと死ぬ、という表現をストレートに使われていたら、目の前の綺麗な顔を思い切り殴っていただろう)。
そういうわけで、何秒もしないうちに顔を背けると、また僅かに笑う気配がして、今度はしっかりと手をとられた。

「顔、赤い」
「うっせ、」

手、離せ。クソ馬。
勢いに任せて悪態をつくと、糖蜜色の目はますます笑う。温かい掌に、握り締めた拳をそっくり包まれてしまう。感触を確かめるように幾度か握りなおされ、俺はその度に、「人の話聞けよ」だか「いい加減にしろよ」だかを口走って、ディーノはその度に、「聞いてるぜ」だの「あー、まだ駄目」だのとかわした。
諦めて、努めて恨めしげに取り繕った視線を向けると、彼は全く悪びれもせずに微笑む。

ああ、本当は、頭なんかとっくにぐちゃぐちゃになってしまってる(逃げ出したかった筈の指先が、いつの間にか緩く彼の指へ絡んでいるのはそういう事だ、きっと)。

クレイドル・14

2007.8.10   上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆
ファミレスで隣の座席に座ってたカップルがお互いの手をずっと離さなかったのがとても可愛かったので。

























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