そっとおさえつけるように。 そっと押さえ付ける様に、ハヤトの小さな手が俺の手に触れた。その拍子に掌と、それをついたテーブルの間に在った空気が無理矢理に押し出されて、微かに可笑しな音をたてる。 ハヤトは黙っている。 黙ったまま、俺を見ている。 古惚けたような翠(所謂、アンティークグリーンの)色をした瞳は切実で、哀しく、悩む様子に似て、そうして、ふつりと途切れてしまいそうな、そういう呆気の無いものを抱えている。 俺は目が逸らせない。ハヤトは目を逸らさない。だから、逸れる事が無い。 暫くそうしていたかと思うと、ハヤトは手を離して、静かに項垂れた。 その瞬間、俺は、先程までの彼が俺の手を握りたかったのだという事に唐突に、そして奇妙な確信を持って気が付き、けれど、全ては其処で終わる。 身体を起こすと、もう外は明るかった。 俺の中には、まだあの曖昧な灰色の髪や朧げな翠の瞳が黒い夜の様に残留していて、それらは如何やっても日の光には溶けそうも無かった。 額に手をあてる。 (にぎってやればよかった、きつく、) Night Flight for "S" 2007.8.4 上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆 60億分の1の孤独 |
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