ディーノの事を、あまりよく思い出せない。
彼が死んでから二年が経ったが、俺は彼を忘れていくばかりだ。彼の瞳がアンバーの輝きをしていた事や、愛用の香水の銘柄を、ただ記号として覚えているに過ぎず、それらがどのようなものを揺らめかせていたのかまでは定かではない。勿論顔のディテイルも同様だった。夢に出てくる彼は何時でも朧げだ。
せめて顔くらいは覚えておきたいと思い、引き出しを探ったものの、目的の物は出てこず、気の早い事に空の写真立てだけが発見された。
その銀色の縁を眺めているうちに、そもそも彼と写真を撮る機会自体が少なかった事を思い出し、もし写真が見つかったら、丁寧に此処に収めて毎朝話しかけなければならなくなる事にも思い至って(そうでもしなければ、また彼を忘れてしまう)、結局は探す事をやめた。
何もかも滑稽すぎる。
だから、もう、あまり彼を思い出せない。


「ディーノ、」

唇へ乗せた名前は、夕暮れの冴えた空気に掻き消える。



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