「本当に、守ってなんかやれないんだ」

あの日、お前が空港に来たら撃ち殺してた。平気でそうしてた。俺は結局お前よりも、自分とファミリーの方が大事なんだ。そういう奴なんだよ、俺は。お前を騙した時だって、可哀想だと思っただけで、ほんの少し躊躇っただけで、銃に弾を装填する手なんて震えもしなかった。"いざって時にはお前を見捨てる"、て前に言ったよな。あれ、本当だった。あのままお前が策に嵌ってたら、俺はお前を殺してたんだ。結局何も、お前の事なんて、ハヤト、俺は、何も、

ディーノはそう言って、両手に顔を埋めた。酷く打ちのめされた様子で、実際、そうなのだと思う。
言葉から察するに、彼は自分の何処かに、ある種の情けの様なものが在ると信じていたらしい。どれ程に"見捨てる"と口にしたところで、最後の最後には必ず手を差し伸べられる、という感情、そして、それはファミリーや彼自身すら差し置いて、俺に、"獄寺隼人"という個人に向けられている筈だ、と。けれど、そうでは無かった。実際の彼は、彼自身の言葉を借りるなら、"自分とファミリーが一番大事"な人間で、"獄寺隼人"は二の次どころかそれ以下だった。その事実に、ディーノは酷くショックを受けているようだった。彼の様な人格の人間だったら、当然なのかもしれない(ボスとしてはショックを受ける事自体が間違っていたとしても)。
俺はといえば、やはり多少は息が詰まったけれど、随分前に理解している事でもあったので、痛みは覚えなかった。
哀しい、と僅かに思う。初めから麻痺している自分と、まだ血を流せる彼を。
赦すなんて大層な事は出来ないし、するつもりもない。手元にあるもので、尚且つ自由に出来るものは少ないから、俺には蹲った彼に寄り添って、ただ、「それでも、好きだ」と言葉を零す事くらいしか出来なかった。

「俺も好きだ」

ディーノが呻く。

「その筈なんだ、」

そのアンバーの瞳には、酷い悲哀が溶けている。
振り返る事などは許されない彼が、そうして罪悪感に身を捩るのを、俺は静かに眺めていた。

真正と虚妄のデフィルデ

2007.8.18   上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆
真正なものは何時でも残酷で、俺達は何時でもそれに喰い潰されるだけの家畜だ













































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