伸ばした手に触れた温もりは誰のものだろうか。10代目か、山本か、それとも雲雀か。誰でもいい。俺にとってはどれも同じ事だ(ただ一つ彼のものでないのなら)。 きっとこの瞬間さえ、あのアンバーの瞳は取り乱す事無く正確に焦燥を取り繕いながら、俺を見下ろしているのだろう。 当前だ。俺達の間には何も無かった。俺は10代目の右腕として、10代目のために"ボンゴレになくてはならない同盟ファミリーのボス"を守っただけの話だ。それ以上である筈が。 胸に受けた銃弾が、ずくずくと、おかしな熱を持って侵食する。暗殺用の銃の殺傷力は高いと聞くが、急所を僅かに外れているらしい。それと同等の温度を宿した、けれど、不思議な安堵すら齎す手が、気遣わしげに俺の手を摩った。 誰だ、やはり、10代目だろうか。手が血に汚れてしまうだろうに、優しい方だ、と薄く思う。 けれど、漸く瞼を押し上げた先に映ったのは、その敬愛する人でなく、共に苦難を乗り越えてきた仲間でもなかった。昔から好きで好きで仕方のなかった(そして、それを本人にはあまり上手く告げられなかった)男の姿だった。 傍らへ膝を着いた彼の、その指が俺の手を静かに辿る光景は、都合の良い幻想のようにも思えたけれど、それにしては何もかもが出来すぎている。 欲しがって、触れる事は赦されても、得られなかったものばかりだ(滲む琥珀、温かな指先、呼ぶ声、彼の総て)。 仲間達の遠い声、頬へ触れた温かな一滴に、逆らえずに落下しながら、饐えた甘さを噛む。 ああ、結局のところ、互いに嘘を吐いてばかりだった (お前のためになんか死ねない、と、他人に涙は見せない、と、言っていたあの日の俺達は、) Mendacity (at Eden) 2007.8.1 上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆 それでも幸せだった |
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