銃弾は鈍い音をたてて骨肉を抉り、けれど不思議な事には、倒れる筈であった俺は地面にきちんと足をつけて立っていた。代わりに足元に崩れ落ちたのは、倒れる必要など全く無い人間だ。石畳に灰色の髪が乱れ、苦痛故に翠色の瞳は閉ざされている。
そうして、僅かに伸ばされたその血塗れの手が、彼の存在意義であった筈の人間に向けてではなく、常に共に在った仲間に向けてでもなく、ただ只管に俺へ向けられたものである事に、漠然と気付く。

(思えば、騙してばかりだった。殆ど総てに嘘を吐きながら此処まできた。良かれと思ってしてきた事だし、そうでなければ駄目になっていただろう。けれど、こんな結末を迎えるのでは、俺達はあまりに憐れだ。代償としての報いならば、この十数年の間互いに受け続けてきたというのに、)

覚束ない様子で宙を彷徨っている彼の手を取ろうとしたツナの手を遮り、幾分か驚いたような周囲の気配に短く詫びをする。倒れこんだ身体の傍らへ膝を着き、握り緊めた指先は赤く滑る。
こんな風に手を取る事を躊躇わずにいたならば、或いは彼をもう少しだけ幸せにしてやることも出来たのかもしれない。
此処へきて、この白い手が俺を切望する事だって、無かったのかもしれない(そうするまでもなく、俺は彼の手を握っただろうから)。
滲んだ視界に映り込んだ彼は心底満たされたように微笑して、それは、長い間俺が見たいと思っていたものだった。
口々に彼の名を零す面々のそれと一緒になって、ただ一滴だけが重力に従う。

ああ、最後まで吐き通せない嘘ならば、最初から吐かなければよかったのだろうか
(それとも、あの日の俺達が吐いた嘘を最後には覆せた事を、幸せだと思えばよいのだろうか)

Eden (at Mendacity)

2007.8.26   上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆
だから、この痛みは永遠に癒えない























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