「お前のためには死ねない、なんて、嘘だったんだな」

俺、もっと、お前の事、どうでもいいんだと思ってた。お前が撃たれて死んだって、精々泣くぐらいのもんで、暫くすれば笑えるだろう、くらいにしか考えてないんだと思ってた。お前にも、そう言ったっけ。でも、あれ、嘘だった。本当は、お前が息をしなくなるのが、俺、可笑しいくらいに怖かったんだ。自分が死ぬより、ずっと、ディーノ、俺、自分で思ってたより、ずっと、

ハヤトは掠れた声でそう口にして、真っ白なベッドから俺を見上げた。不思議そうな表情には偽りは無く、彼はこれまで本当に"そう"思っていて、今現在は"そう"思っているようだった。
彼の中で"ディーノ"という男の存在が"どうでもいい"という位置づけになっている事に関しては、別段酷な訳でもない。全てが納得済みの話だ。俺はハヤトを助けないが、ハヤトも俺を助けない。抗争において共同戦線を張っている時ならまだしも、常時のそれなどは在り得ない話だ。
それだけに、今回彼が俺を庇って銃弾を受けた事は予想だにしない事態だった。俺は彼が自分を庇うなどとは夢にも思っておらず、彼自身もそう思っていたのだから。
心の底ではそれ程に思われていた事実に対しての感慨こそあれ、如何やっても其処に歓びを見出す事は出来そうも無い。彼が心を傾ける範囲の末端にさえいられたならば、それで構わなかった。間違っても、俺のために彼が傷つく事はあってはならなかった。
だから、如何しても感謝は出来ない。謝罪も同様だ。俺は、力なく横たわった彼の手を握り締めて、ただ、「好きだ」と言葉を降らせてやる事くらいしか出来なかった。

「俺も好きだ」

ハヤトが囁く。

「一番大事だったんだ、」

その翠の瞳は色濃い疲労を宿して、徐々に焦点が朧げになり始めている。身体が休息を求めているのだろう。
意識を保つ事も困難になってきている彼が、緩やかに瞼を下げる様を、俺は黙って眺めていた。

真正と虚妄のゲフィルデ

2007.8.21   上 (※D59祭 ANODYNE 掲載) au.舞流紆
そんなものは永遠に嘘のままで良かったのだ、たとえ俺が息をしなくなっても






















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