CBが有するガンダムの一機であるヴァーチェ、搭乗するマイスターはティエリア・アーデ。
年齢、国籍、出自、家族構成その他は一切不明。表面上は同じ志を掲げる者として引き合わされてから数ヶ月が経つが、趣味嗜好も全く知らない。数少ない情報を挙げるならば、妙な服の趣味と、性格が極端にすぎるといったものくらいだ。
端的に言えば、俺は彼の事を何も知らなかった(けれども、初対面時にぶつけられたあまりに辛辣な物言いに、好ましい部類の人間ではない、という漠然とした感覚だけは植えつけられていた)。

(それなのに、現金なもんだ、)

寝そべったままで吐いた溜め息は、狭いキャビンの中でうろつく間もなく霧散した。
目の前で、淡いグリーンのシャツが白い肌を覆っていくのをぼんやりと眺める。布同士が軽く擦れる音だけがしている。
ティエリアと一緒になって日付変更線を跨ぐのは、これで七度目だった。切っ掛けはどちらかといえばありきたりなもので、俺たちのうち、そのどちらともが、頭に血が上っていたのだと思う。
ガンダムに乗って戦うのと生身で白兵戦をするのとでは、精神的な負荷の種類も影響の規模も違うが、しかし、死には酔う。即ち、理性が崩れる。疲労が溜まれば尚更の事で、まして戦闘後などは気が緩んで余計に拍車がかかる。
偶然行き合わせたシャワールームで暴挙に及んだ俺を、彼は責めなかった。「手間が省けた」とさえ言った。なし崩しに互いの部屋を行き来するようになるのも自然な流れだった(この関係が不自然だというのは解っていたものの、気兼ね無く処理が出来るというのは閉鎖空間である多目的輸送艦内においては魅力的な事だったのだ、恐らくは彼にとっても)。
そのような具合で、初めは衝動に任せて求め、二度目以降は利を得るための接触だったわけであるが、三度四度と重ねる毎に事態は変わっていった。悪い方向への展開だった。
そして七度目の今日、出来れば一生知りたくなかった事を知ってしまった。

(どうして、こう、すごく面倒そうな奴に走るんだろうなあ、俺って)

此方を振り返りもせずに淡々と身支度を整える薄い背中に思う。
確かに顔は良い。全く正常な性癖を持っていた俺が、戦闘後で昂っていたとはいえ、ぐらりときたのだから、それなりに好みの範疇へ含まれるのだと思う。ただ、性格が問題だ。難が在り過ぎる。全てにおいて極端であり、時に周囲を波立たせる彼の言動は、無用な諍いを良しとしない俺の精神には些か酷なものがあった。けれども、それだから余計に気にかかるし、ふとした瞬間の一言の裏が見え、それが可愛らしい類のものであれば堪らなくもなる(もっとも、可愛らしい類のものである場合は殆どないと言っていいのだが、それでも期待は拭えない)。
つまるところ、彼を好ましいとは微塵も思っていなかった筈の俺は、今では両手で白旗を振ってしまっていて、手の届く範囲へ彼がいたならば旗を放り投げて抱き締めてしまいたいと考える程度には参ってしまっていた。

「…何か?」

思わず吐いてしまった大仰な溜め息に、ティエリアが振り返る。
機体の性質上作戦行動を共にする事は少なく、らしくもない臆病心やら何やらでプライベートへの干渉さえ躊躇っている俺は、彼の事を殆ど知らない。関係を持った後もそれ以外の用件で彼の方から近づいてくる事は全くなかったので、まるきり初対面時のままだ。妙な服の趣味、性格が極端である事、これに付け加えるなら、身体にあるほくろや傷の位置だとか、そういった下世話な方面の情報ばかりが並ぶ。
肥大し、蓄積されていくのは特定の意識だけだ。なんとも哀しい。

「別に、なんでも」

努めて取り繕う事しか出来ない俺に、彼はその暗血色の瞳を暫く向けた後、そうですか、と言った。切り揃えられた髪が、肩から零れる。数時間前に散々掻きやった髪。
眼鏡をかけ、「では、」と口にして素っ気無く部屋を出て行くティエリアに、俺は「ジーザス」と口の中で呻いた。

とある男の厄介な恋の話

2008.2.27   上
2008.3.18   加筆修正 au.舞流紆
ロックオンがもだもだするのは恋愛に関してくらいだと思う、
























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