片方しかない腕でライルさんの足へ縋り付き、ティエリアは、と呻くストラトス伯に、ライルさんは何も答えないまま、声をあげて笑いました。 椅子に腰掛けたままで、お芝居のように大げさに手を広げて、言います。 「無様な兄さん、可哀想な兄さん、人間なんかの心配をするほど落ちぶれちまったのか?だが、まあ、そんなに知りたいなら教えてやってもいい、」 その前に、一つ質問に答えてくれないか。 青い目が、にたにたと嫌な形に崩れます。 ストラトス伯の顎を掬い上げた、ライルさんのエナメルの靴の先が、黒々と光ります。 「世界で一番脆いものはなんだと思う?」 答えられずにいるストラトス伯に向かって、ライルさんは声を出さずに、唇だけをゆっくりと動かしました。 『ニンゲン』 それを目にしたストラトス伯の身体が、びくりと引き攣ります。 ライルさんは、にい、と唇の端を引き上げ、つい、と顎をあげて、背後に控えていた魔物に何かを命令します。 すると、魔物はぐにぐにとした蔓状の長い腕を伸ばしてきました。 その先に絡めとられている、仰向けの細い身体が、ストラトス伯の眼前でゆらゆらと揺れます。 葡萄色の髪、青白い肌。 眼鏡をかけていない真っ赤な目は虚ろに開かれて、光は無く、瞳孔は開ききっています。 ライルさんの足を引っ掴んでいたストラトス伯の手が、石の床へ落ちました。 そうして、「ああ、」だか「うう、」だか、そんな掠れ声を上げたきり、ストラトス伯の目はぼんやりと宙を見つめるだけになってしまいました。 ストラトス伯の顎を持ち上げていた足を下ろして、ライルさんが歌うように言います。 「ああ可哀想、可哀想だなあ。そう思うだろ、兄さん。アンタみたいな化け物なんかに愛されたばっかりに、こんなになっちまって。絞め殺されるのはさぞかし辛かったろうよ。ああそうだ、なんなら聞いてみればいい、絞め殺されるのがどれくらい苦しいのか、」 もっとも、答えは一生待っても返ってこないだろうがな。 くつくつと喉を鳴らしたライルさんは、床に伏したままで全く動かなくなってしまったストラトス伯を見て、ああ、こっちも壊れちまった、と言うと、ぱちんと指を鳴らします。 その軽快な音に、部屋の奥から頼りない足取りで現れたのは、リジェネさんです。 リジェネさんの顔色はティエリアさんと同じくらいに酷かったのですが、ティエリアさんと違うことには、彼はまだ生きています。 生きている上、もう人間ではありませんでした。 手袋を填めたライルさんの親指が、薄く開かれたリジェネさんの唇を、ぐい、と押し開けます。 「腹が減ってるだろ、リジェネ。さあ、餌の時間だ」 ライルさんがそう言うと、リジェネさんは床へ屈みこみ、ストラトス伯を無造作に転がして、その首筋へ牙を突き立てました。 血が噴き出すごぼごぼという嫌な音がしましたが、けれども、ストラトス伯は呻き声すらあげず、胸を喘がせるばかりです。 リジェネさんが真っ黒な血を夢中で飲み干してゆくのを、ライルさんは目を細めて見守っています。 こいつはまだ楽しめそうだ、そんな風に思っているのです。 ライルさんの華々しい娯楽の日々 2008.9.26 上 au.舞流紆 ラ イ ル 閣 下 、 降 臨 閣下が三人とそれぞれ個別で遊んだり、むしろみんなで遊んだり、自分は参加しないで他のみんなに遊ばせたり、その辺でとっ捕まえたハンターを連れてきてみたり、人外さん出てきちゃったり、あとはまあ切ったり付けたり裂いたり蹴ったり詰ったり嬲ったり、とにかく閣下がいろんな意味でやりたい放題してるとかいう、ものすごくアレな大長編のダイジェスト、 |
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