ライルさんはリジェネさんの腕をゆっくりと引くと、親指に填めた銀の爪で袖を裂き、剥き出しの腕の中ほどに一筋の傷をつけました。 傷口からはすぐに血が盛り上がってきて、足元の青々とした葉に、タタ、と音を零します。 その様子を見て、ライルさんは唇の端を、にい、と吊り上げ、リジェネさんは唇の間から、ひっ、と短い悲鳴を漏らしました。 「ああほら、あと少しだ」 そう言って、ライルさんは笑いました。 その銀の爪の先や二人の足元の葉には、血が付いています。 リジェネさんの腕からも、血が垂れています。 けれども、その血の色は、漆黒に限りなく近い赤でした。 いいえ、ほんの少しだけ赤みを帯びた黒、と言った方がいいのかもしれません。 いずれにせよ、リジェネさんの身体は最早人間のそれではなく、吸血鬼のものに近づいていました(腕の傷は、もう塞がりかけています)。 ライルさんが強い力で掴んでいた腕を放してやると、リジェネさんはその場に崩れ落ちました。 自分の身体の恐ろしい変化に、顔は真っ白になってしまっていて、真っ赤な目は見開かれ揺れています。 唇は僅かに慄いて、血の伝う腕をもう片方の手できつく握っていました。 不遜さの欠片もないその様子に、ライルさんは喉を低く鳴らし、身を屈めて、リジェネさんの耳元で囁きかけました。 「忌み嫌う化け物の"呪い"に侵されるのはどんな気分なのか、教えてくれないか?」 その言葉に瞬間正気に返り、横へ薙がれたリジェネさんの腕を、ライルさんは、ひょい、と避けました。 避けながら、まだ、にたにたと口許を歪めてます。 裂かれた袖の間から覗くリジェネさんの腕に、傷はもう、ありません。 ライルさんとリジェネさんと 黒い血のおはなし 2008.9.17 上 au.舞流紆 ライルさんに噛まれたリジェネさんが吸血鬼になりかけているようです、 |
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