レジェッタ候と暮らし始めてから随分と月日が経った頃、ライル君はずっと不思議に思っていたことをレジェッタ候に尋ねました。

「リジェネは食事をしないの?」

そう言ったライル君の傍には、人間の女の人が倒れています。
まだ一人ではお食事ができないライル君のために、レジェッタ候が近くの村から捕まえてきてくれたのです。
そのうえ、顎の力が弱くって人間の身体へ穴を開けることができないライル君に代わり、その首筋を噛み千切ってもくれたのですが、けれども、レジェッタ候は口の中へ残った皮膚を吐き出し、ハンカチで口許を拭ったきり、血を飲もうとはしないのでした。
ライル君が記憶している限りでは、レジェッタ候が血を飲んでいるところを見たことはありませんでしたから、さぞかしお腹が空いている筈です。
なのに、どうして血を飲もうとしないのでしょう。
ライル君は、それをずっと不思議に思っていました。
尋ねられたレジェッタ候は、「食事、」と零します。

「勿論しているよ。でなければ、死んでしまうだろう?」

そんな風に言って僅かに笑ったのですが、ライル君はほっぺたを膨らませると、「そんなの嘘だ」と言いました。

「如何して?」
「だって、リジェネが血を飲んでるところ、見たことないもん」

ライル君は地べたへ転がっている女の人の真っ赤な首下へ顔を突っ込み、またぴちゃぴちゃとやり始めます(彼は食べ盛りに近づきつつある小さな男の子でしたし、それに、とってもお腹が空いていたのです)。
その様子を見ながら、レジェッタ候はしばらく思案をしていたのですが、やがて物憂く溜め息を吐きました。
そして、ライル君のくるくる巻き毛を撫でて、こう言ったのです。

「僕には吸血鬼とは違う血が混じっているから、君と同じように血を飲んで生きているわけじゃあないんだよ」
「じゃあ、何を飲んでるの?お水?人間みたいに、牛とか豚とか葉っぱとかを食べてるの?」
「いいや、」

もっと違う、別のものだよ。
レジェッタ候はそんな風に言います。
ライル君はそれがなんなのかを知りたかったのですが、でも、レジェッタ候の表情が酷く億劫そうな、疲れたような風情をしていたので、聞くのをやめました(お腹が空いていて何より先にお食事をしたかった、というのもあります)。
噛み締めた首筋からは、じわ、と血が溢れ出してきます。
甘いような、しょっぱいような、不思議な味がします。
自分は血を飲まないくせに、レジェッタ候が捕まえてきてくれる人間の血は何時でも美味しいので、ライル君はレジェッタ候のことを、やっぱり不思議だ、と思いました。


ライル君がレジェッタ候の本当の糧が何なのかを知るのはもっとずっと後のことで、その日、彼はその人生において間違いなく最大級といえるショックを受けることになるのですが、それはまた別の機会にお話ししましょう。

レジェッタ候とライル君と
上等な食卓のおはなし


2009.7.3   上 au.舞流紆
そのうちライル君がレジェッタ候に向かって「おれのおよめさんになって」と言い出さないかが心配です、
さらに「僕はお嫁さんにはなれないなあ」と笑ったレジェッタ候に「じゃあ、おれがおよめさんでもいいよ」とかいうボケをかまして、それが彼のトラウマ的な黒歴史になりはしないかが心配です(しかもそのネタで後々までレジェッタ候につつかれるとかいう、)






























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