その日、ライルさんは水煙草をぷかぷかしながら、ぼんやりと考えていました。

(今日でちょうど二週間か)

何がちょうど二週間かといいますと、リジェネさんがお仕事にでかけた日から今日までの日数です。
リジェネさんほどの腕前の吸血鬼ハンターになると、本当に色々なところから討伐要請が舞い込んでくるものですから、そうそうフラットに居られるものではありません。
吸血鬼であるライルさんがお仕事にくっついて行くわけにもいきませんから、リジェネさんが出かけている間、ライルさんはお留守番吸血鬼になっていて、今日ももれなくそうなのでした(リジェネさんと離れたくないばっかりにお仕事現場へくっついていって、同胞にでも見咎められれば、それこそ一大事です。人間なんかと暮らしていることが一族に知れたら、どんな罰を科されるかわかりません)。
煙草の煙が大嫌いなリジェネさんがいないので、大好きな煙草を気兼ねなく吸えるのはいいのですが、やっぱり煙草よりもリジェネさんの方が好きなものですから、ライルさんはちょっとおセンチしているみたいです。

(兄さんみたいに待つのが得意な性質だったらよかったんだが、)

そうは思うものの、ライルさんはライルさんで、お兄さんであるストラトス伯にはなれるはずもありません。
会いたいなあ、咬みたいなあ、と思いながら水煙草をぷかぷかして、ソファベッドでごろごろして、だらだらしています。
そして時折、ぽ、と吐き出した煙を輪っかにして、その向こう側に見えるドアを眺めます。
その鈍い金色のドアノブは、がちゃり、と下がったりはしませんし、ましてや、その古びた蝶番は、ぎい、と音を立てたりもしません。
この二週間、ずっとそうです。
なので、ライルさんはますますしょげかえってしまうのでした。

けれども今日は、そんないつもと変わらない空間へ、ちょっと変わった物が差し込まれました。
ドアの半ばほどの高さにあるお手紙受けへ、ぽと、と一枚の葉書が落っこちてきたのです。
それを見たライルさんは、ちょっと首を捻ります。
ライルさんの知る限りでは、葉書なんかがフラットへ届いたことは一度も無いのです(教会からのお手紙は全部封書で届きましたし、リジェネさん宛てに届くお手紙といったら、教会からのものしかないのでした)。
水煙草の吸い口を置いて、ライルさんは葉書を取りに行きます。

葉書は、絵葉書でした。
生成りの素朴な紙に青い勿忘草が描いてありますが、肝心のメッセージ欄には何も書いてありません。
消印は二日前、大きな街から三日ほど歩いたところにある村のものでしたが、差出人の名前もありません。
宛先のところへ書いてあるのは、フラットの住所と、それから、"L"という一文字だけです。

そんな具合の、面白みが無いどころかわりと意味不明な葉書だったのですが、けれども、それを見たライルさんは、ちょっと嬉しそうな顔をして、水煙草を消しました。
リジェネさんがお仕事の書類をまとめるのに使っているテーブルへ葉書を置き、それから、窓を開けて、換気をします。
なにしろ、そろそろ帰ってくる人間は、煙草の煙が大嫌いなのです。


テーブルの上に置かれた葉書と、その下に置いてあるリジェネさんの書きかけの書類には、おんなじ角度、おんなじ癖の、"L"の字が並んでいます。


ライルさんと青い絵葉書のおはなし

2009.2.26   上 au.舞流紆
リジェネさんなりのデレ方だけれども、見方によってはかなり切実かと思う、
(差出人のところを見る前に字面や筆跡で「ああ、」と思う時があります、)































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