立て続けに銀の弾丸に貫かれたおかげで半ば千切れかけていた左腕は早くも繋がって、その傷も塞がり掛けていました。
それは恐るべき速度でしたが、けれども、吸血鬼の身体にしては遅すぎる再生とも言えます。
銀の成分に対する激しいアレルギー反応のせいで爛れてしまっている傷からは、血がぐじぐじと滲み続けていました。
もちろん血の色は黒、吸血鬼の血の色です。

(あいつ、確かちょっと前に、)

左腕を庇いつつ木々の間を駆け抜けながら、ライルさんは記憶を手繰っていましたが、すぐに思い当たりました。
もう少しで腕を吹き飛ばしてくれそうだったハンターに、ライルさんは前にも会った事があるのです。
リジェネ、と名乗ったその吸血鬼ハンターは、ちょっと前に(といっても、30年ほど前の事ですが)ライルさんが返り討ちにした上で、暇つぶしに咬んでやった人間でした。
ライルさんが自分の事を狩りに来たハンターを滅茶苦茶に痛めつけてから殺したり、もしくは咬んでから殺したりする事は珍しくもなんともなく(なにしろ彼はちょっとだけサディストの気がありましたし、吸血鬼一族の中でもとびきり享楽的で、つまるところ、男女の区別にはあまり頓着しないのでした)、誰をどうしたかなんていちいち気にも留めていないのですが、リジェネさんの事はなんとなく覚えています。
『見た目は綺麗、咬み心地も悪くない、反抗的なところも歓迎、ただ、口が悪くてくそ生意気だった』。
そんなような酷い感想でしたが、興味がない事はすぐに忘れてしまうライルさんからしてみれば、それは破格の待遇でした。
そして、それ故に、リジェネさんは生き残っているのです。
魔力の残滓を追ってきているのでしょう、後ろからはまだリジェネさんの気配がしています。
腕の傷が完全に塞がる前に、もう一度仕掛けてくるのは必至です。

「相変わらず生意気だったな、」

長い長いベロアのマントが風を切る音に混じって、小さな笑いと呟きが漏れました。
お気に入りの玩具が目の前にあるというのに、それを転がしたままにしておくほど、ライルさんは堪え性のある吸血鬼ではありません。
30年ほど前、新月の晩の出来事を思い返して、浅く舌なめずりをしたライルさんを、満月の強い光が煌々と照らしていました。

ライルさんとリジェネさんと
満月の遊戯のおはなし

2008.9.14   上 au.舞流紆

ライルは吸血鬼としては相当まともな部類かと思う、(´▽`)という顔をしている某伯爵は吸血鬼としては異常の極致かと思う、
※作中の『咬む』の意味は各自で察するか、サイト内の『あばら家辞典』を参照しましょう…、






























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