深い深い森の中にある一軒のあばら家へ一人の吸血鬼が転がり込むずっとずっと前、とある村の中にある一軒の家の屋根の上で一人の吸血鬼が物思いに耽っていました。
ロックオン・ストラトス伯です。
今しがたお食事を終えたばかりのストラトス伯は、唇に付いた血をハンカチや何かで拭ったりせずに、お行儀悪くも舌で舐めとっていました。
今日のはあんまり美味しくなかったなあ、なんて思ってます。


ここで、早速疑問に思った方のために少しだけ申し上げておきますと、このストラトス伯は後に深い深い森でティエリアさんと暮らすことになる、あのストラトス伯ではありません。
彼はあのストラトス伯、つまるところのニールさんの弟で、ライル・ディランディというお名前の吸血鬼でした。
ニールさんとライルさんのどちらともが"ロックオン・ストラトス"と名乗っている理由は、吸血鬼社会の上流階級が持つしきたりとして、"お名前を二つ持つ"というものがあり、双子に生まれた人に関しては、二人で一つのお名前を共有するのがならわしだったからです。
ですが、流石にニールさんとライルさんのことを全く同じお名前で書いてしまいますと、この先とても都合が悪いですし、このストラトス伯はとある理由から普段も本名であるライル・ディランディを名乗っているものですから、そのまま"ライルさん"と呼ぶことにしましょう。


さて、そのライルさんですが、口の周りについた血をすっかり舐めてしまいますと、やおら立ち上がり、辺りをぐるりと見渡しました。
吸血鬼の目は、やはり夜目がうんと利くものですから、その気になれば数キロ先の猫も見つけることができるのですが、けれども、ライルさんはまた座り込んでしまいます。
どうやら、探し物は見当たらなかったようです。
溜め息なんか吐いて、ちょっとしょんぼりしてます。
ライルさんは、一体何をしているのでしょう。
それをお話しするためには、一人の吸血鬼ハンターのおはなしをしなければなりません。



リジェネ・レジェッタ、という人がいます。
リジェネさんの職業は先程にも出てきたとおり、吸血鬼ハンターでしたが、普通の吸血鬼ハンターとはだいぶ様子が違いました。
どのように違うのかと言いますと、リジェネさんはなんと100年の長きに渡って一度も任務を失敗したことの無い、いわゆる"無敗のハンター"だったのです。
人間たちの間でも伝説と化して久しいリジェネさんですが、それは吸血鬼たちの間においても同じことでした(もちろん、吸血鬼社会では酷い代名詞で以って恐れられています)。
そんな風に有名人ではあったのですが、けれども、その姿を見た人はほとんどいません。
お仕事中のリジェネさんは人間たちの前では真っ黒な外套についたフードを目深に被って、それを脱ごうとはしませんでしたし、ましてや吸血鬼たちに至っては、その姿を見た者はみんな残らず灰になってしまっているものですから、語られるはずもありません。
そんなわけでしたから、外套から覗く、綺麗な形をした手の細さや白さ、いつまでも衰えない力に、その正体は神様が遣わした天使であるだとか、吸血鬼を食べて生き延びる種族なのではないかとか、たくさんの憶測が飛び交うばかりでした。

でも、そんなリジェネさんの姿を目にした事がある人が、実はたった一人だけいるのです。
それが、ライルさんでした。
ライルさんがリジェネさんを見たのは全くの偶然で、その瞬間というのもわりと最悪の部類だったのですが(なにしろリジェネさんは吸血鬼、つまりライルさんの同胞の頭を銀の銃弾で木っ端微塵に吹っ飛ばしていました)、それでも、ライルさんはリジェネさんに一目惚れをしてしまったのでした。
ずば抜けて強くって、とっても綺麗。
そんな、吸血鬼にも通じるようなものを、ライルさんはリジェネさんに感じ取ったのかもしれません。
それからというもの、ライルさんは、もう一度会えないかなあ、なんて考えているのですが、残念ながらそれが叶うことは無いまま、30年という月日が流れていました。



そういったあれこれの末にライルさんがしていることといえば、ちょっと拠点を決めて、其処でお食事をすることです。
一つの地域でお食事を続けていると、その噂が教会へ伝わって、ハンターが派遣されてくるものですから、普通の吸血鬼はそんなことは絶対にしません。
けれども、ライルさんは、それを逆に利用してやろうと考えたのでした。
やってくるハンターを次々に退けていれば、いずれはリジェネさんがきてくれるかもしれません(ちなみに、今までにライルさんのところへやってきた吸血鬼ハンターは3人。どれもリジェネさんではありませんでした)。
お友達の吸血鬼には「危ないからよしなよ」だとか「趣味が悪いな」だとか言われましたし、自分でも、随分と莫迦げたことをしてるなあ、と思ってはいて、きちんと解ってもいます。
それ故に、やっぱりちょっと性質が悪いのでした("恋は盲目"、とは、全くよく言ったものです)。


だんだんと東の空が白んできました。
どうやら、今日は諦める他に無いようです。
ライルさんはもう一度溜め息を吐くと、立ち上がり、屋根を軽く蹴りました。
タールのように真っ黒なフクロウに変身すると、そのまま風に乗って、お城へと帰ります。
空では明けの明星が、薄紫に飲み込まれそうになっています。

ライルさんと
何処にでもある目隠しのおはなし

2008.12.15   上  au.舞流紆
というわけで、「ストラトス伯とティエリアさん」本編と相互にリンクしあって進む「ライルさんとリジェネさん」本編スタート、
恐らく台詞や設定以外のアニメエピソードは殆どトレースされません、(あ、この自己申告は意外に心を抉ったぞ、)






























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